一之瀬丸・神奈川県金沢八景
2016.12.8号
今季は好調! 東京湾の風物詩スミイカが大型化
東京湾で冬の風物詩の一つとして長い歴史を持つ甲イカの一種スミイカ。大量の墨を撒き散らすのでその名が付いたが、ねっとりとした甘みは江戸前寿司のネタとして江戸時代から有名だ。伝統の羽子板テンヤで釣るため、そう数は伸びないが、今季は秋の開幕から絶好調。そこで今季、竿頭が30杯を記録した金沢八景『一之瀬丸』のスミイカ担当、渡辺直人船長に、独特のテンヤ釣法をレクチャーしてもらった。
好調の証し! 今季はサイズもポイントも満遍なく散らばっている
「今、どこで釣れているかと問われれば、東京湾全体ですとしか言いようがないですネ。それほど各ポイント万遍なく釣れています。僕は結構、先取りして狙っていくんで、今は竹岡沖から下浦沖の深場。その分、400~500gと良型がレギュラークラスです」とは渡辺船長。テンヤの釣りはしゃくった時にガツンと衝撃がくる独特の釣趣だが、それも500g級になってくると、ひと際強く、竿が折れるかと思うほどだ。その快感が忘れられず、どんどんハマっていくマニアが多い。一方で、地道に底層を探るため数が伸びず、ツが抜ければ(10杯以上)上出来、ビギナーはオデコの可能性も……という釣りなのだ。
つまり、1杯でも釣れればその魅力が分かるわけだが、今期は秋口の開幕から絶好調。『一之瀬丸』では開幕からオデコを回避できた日が多く、ガツンッを味わえる可能性は高いから、入門の大チャンスといえよう。「今期は海水温の下がりが遅く、初期に狙う水深12~13mといった浅場にもわんさかいるし、今頃から徐々に落ちていくんで、もちろん深場にもいる。
面白いのは、現在の最大級になる750~800g級は意外と浅いポイントにいるんですよね~。深場は確かに良型が揃っていますが、特大はなぜか浅い。まあ、浅い方が釣りやすいから、ビギナーにチャンスです」と太鼓判だ。
ヒット時の衝撃を受け止めるには専用タックルが必要
スミイカはテンヤの構造上、竿をシャクッって主に口以外に掛ける、いわゆる引っ掛け釣り。この衝撃は小型(150g前後=タワシくらい)でもそれなりに強く、ゆえに超先調子で胴がガッチリ硬い竿が必要になる。流用できる竿はないので、昔から専用竿があるから、それを購入すべし。セットする小型両軸リールも頑丈さを第一に選ぶが、こちらは近年、削り出しのボディなど頑丈な高級品が出回っていて、これがベストになる。
大昔は糸からそのままシャコ付きテンヤだけを装着していたが、30年近く前からスッテが登場し、テンヤの少し上に装着するのが流行り出した。現在の餌木スミイカの原型とも言えるが、こちらもテンヤをしゃくれば踊るので、乗る確率も高く、多くの人が付けている。
「どっちがいいですか、と問われれば、付けた方がいいですと答えます。ベテランにはシャクリの感覚が違ってくるという人もいますが、底ベタのテンヤではなく泳層で漂うので、ヤリイカなどのアピールヅノと同様、スミイカを寄せる効果があると言えます。数を狙うなら、お薦めです」と船長は言う。
なお、餌のシャコは生きたものを使う。東京湾はもともとシャコの宝庫で、ゆえにスミイカが主食の一つとしていたもの。だから色艶や目の蛍光色の輝きを考えると、生きたものがいい。昔は付近の漁師さんがわんさと獲って、それを安く購入していたが、過去に大不漁となった年以降は不漁が続き値段が高くなった。そのため乗船料で付くのは5匹で、6匹目からは有料。テンヤにシャコを付けるにはちょっとしたコツがいるので、ビギナーは最初の1匹目は船長に教えてもらうといい。ちなみに装着する時、よく切れるハサミと輪ゴムは必需品なので持参しよう。スッテ選びはあまり難しくなく、6~7cmサイズのウキスッテか、2号前後の餌木でもOKだ。
釣り方のカギはいかにシャコを本物に見せるか
餌のシャコは自然界では海底を這いまわり、時にエビのようにパシンと尾を振って飛び上がり、また海底へ軟着陸する。それをスミイカが見つけて、上からバッと覆いかぶさるように抱き着く。
そのため、シャコの付いたテンヤも同様に動かして、本物のシャコのように見せる必要がある。経験が豊富なベテランは竿の操作でその演出を上手くやるが、ビギナーにはなかなか難しい操作の一つといえよう。
基本はリールを包み込むように持ち、他方の手はその40~50cm上。胸元で肩幅くらいの幅で、リールを下にして斜めに持つ。そして、上の手を少し前に。これでシャクリの最初のポーズ。ここからリールを支点に上の手を手前に引き寄せてテンヤをシャクリ上げ、そのまま上の手を前へ下げていってテンヤを着底させる。
「ビギナーさんには、こう教えています。シャクリ上げは20~30cmの幅で鋭く、その後、竿先にテンヤの重さを感じつつ(竿先が僅かにおじぎしている程度)竿を戻していき、テンヤを軟着陸させます。こうしないと、テンヤがすとんと真っ逆さまに落ちたり、横倒しになったり不自然な動きになって、寄ってきません。なかなか難しい感覚ですが、忍耐強く繰り返していると、感覚が分かってきます。そして、終日飽きずにシャクリ続ける人に、釣果は付いてきます」と船長は言う。なお、今期は遅れている分、釣期が後ろにズレ込んでくれるかというと、そうでもない。「どのジャンルもそうですが、遅れても、なぜかきっちり例年通りに終了するもんなんですヨ」とのこと。これから厳寒期に向かうのと、どんどん深くになって難しくなってくるので、ビギナーの初チャレンジはお早めに。