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ディープクランクで日本のサケが釣れるのか?試してみた!【新潟県五十嵐川】

2024年12月05日公開

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日本の川では「サケ」という魚を勝手に釣ったりはできない。水産資源保護法によって内水面のサケ釣りが基本的に禁止されているからだ。でも秋になると一部の河川では「サケ有効利用調査」として、サケ釣りを楽しむことができる。私は昨年、新潟県三条市を流れる「五十嵐川」で、念願のサケを仕留めることができた。そして、今年もサケを求めて五十嵐川へ。ただし、今回は単なるサケ釣りではなく、ディープクランクを使っての挑戦だった!

そもそもディープクランクとは何ぞや?

サケの釣り方は大きく分けて、ルアーとフライとエサ釣りの3つがある。中でもルアーで釣る場合は、ミノーかスプーンを使うのが一般的だ。ところが昨年、五十嵐川で釣りをした際、地元のアングラー「丸山さん」のタックルを見て私は驚愕した。彼のタックルはベイトタックルで、しかもルアーがディープクランクだったのだ。ずんぐりむっくりとしたクランクベイトの中でも、巨大なリップを擁して、かなり深く潜るように設計されているものがディープクランク。元々バス用なので、正直言って、日本ではバス釣り以外に使われることがほとんどない。

丸山さん「でも、実はディープクランクで釣れるんですよ。サケは」

この時期、川を遡上してきたサケは産卵を意識しているので、それほど食欲旺盛ではない。だから、威嚇的な要素を持つルアーで怒らせた方が口を使ってくれるという面があるのだろうか?とにかく、昨年その話を聞いた時点で、私は来年はディープクランクでやってみようと決心した。

そしてやってきた2024年のサケ釣りシーズン。運よく有効利用調査にも当選できたので、ディープクランクを山のように持って新潟へと向かった。今回一緒に釣りをするメンバーは小学校時代からの釣り友達であるオオモリ。ただし、仕事の都合で到着が遅れるということなので、漁協による朝7時のミーティングに参加したのは私のみとなった。ちなみにミーティングで様々な説明をしてくれた五十嵐川漁協の方も「大森さん」なので、私の友人のオオモリとは、漢字とカタカナで表記を分けている。

初日となる11月14日は、丸山さんも有効利用調査に参加したので、釣るコツや詳細を色々教えてもらった。でも、最後に彼が言ったこの一言に集約されると思う。

丸山さん「レンジを合わせるとか、アクションとか、色々あるとは思いますが。結局は、ルアーをサケの目の前に送り込んで、そこで動かすことが大事なんです」

川を遡上するサケは浅瀬を通る率が高いので、目で見えることが少なくない。それを狙って目の前にルアーを送り込む…それがセオリーなのだ。ただ、その目の前を通すためには、ルアーの視認性を上げる必要がある。だから、丸山さんのクランクベイトは背中や側面に白いマニキュアが塗られていた。

皆さんご存じの通り、地球温暖化の影響なのか、ここ数年日本の河川を遡上するサケが激減している。それは五十嵐川であっても例外ではない。11月2日にスタートした有効利用調査だが、11月8日までは連日5匹以下。9日15匹、10日25匹と一時的に数があがったものの、その後またひとけたになったりして、安定していない。その状態で未知数のディープクランクを使うというのは、かなりのギャンブルといっていいだろう。それでも私はディープクランクを選択した。なぜなら面白いから。2日間の釣行でなんとか1本釣れば、自分としては満足なのだ。

開始20分でミッション達成!

釣り開始時刻を回っても、私はのんびりと準備をしていた。歴代のディープクランクを見つめて、何から投げるべきか思案をしていた。短い距離でよく動かすことを考えると、本当は「T.D.ハイパークランクTi(DAIWA)」を使いたい。でも、あの急流の中での強度を考えると、金属リップはちょっと不安がよぎる。相手となる魚もバスよりはるかにでかいし、この釣りで強度というのは非常に重要な要素だ。

丸山さんが愛用する実績ルアーは「ファットフリーシャッド(ボーマー)」。でも、今回自分の釣具倉庫から「ファットフリーシャッド」を見つけ出すことができなかった。そこで、白羽の矢を立てたのが「キックバッカ―(デプス)」だった。強度的には申し分ないし、なんとなく急流の中でも上手に水を受け流してアクションしてくれそうな気がした。側面がフラットな点も「ファットフリーシャッド」っぽくて、サケマス類に強そうだ。これをシングルフックに付け替えると、丸山さんから電話が入った。

丸山さん「もう釣れましたよ!」

今日はいい日に当たったのかもしれないぞ。さっさと準備を終わらせて、ポイントに駆け付けたのが9時半。そして、「キックバッカ―」を投げてみた。流心に投げると、すぐに水を捉えてアクションし始めた。しばらく巻くと、リップが川底を捉えて、ボトムノックするのがよくわかる。

10mほど先の浅瀬に、うっすらとサケの魚影が見える。あれは産卵床なのだろうか?何本かのサケが出入りしているようにも見える。ただ、この周辺は先行者が上流から狙っていたので、その下流側を引き続けた。見えるサケを狙い撃ちにする釣りではないが、きっと浅瀬の向こうの一段深くなった場所にもサケはいるはず。そう信じて、ボトムを叩いていった。すると、浅瀬のちょっと沖でロッドにズシンと重みがかかった。「根がかりか?」。沈んでいた枝でも掛けたような重さだった。強引に浅瀬へと引き上げようとしたら、黄色いルアーの後ろに、巨大な口が見えた。

「サケだ!」

浅瀬に出てきたサケは、それまでの重い引きではなく、派手な大暴れを繰り返した。丸山さんの助けもあって、無事にランディング。72cmのメスだった。口にはライムチャートの「キックバッカ―」。ディープクランク、やっぱり釣れるんだ!なんと釣りを始めてわずか20分後の出来事だった。やや、あっけない感もある。

 

開始30分で鬼門をクリア!

その約30分後、やっとオオモリがポイントに到着した。この男、言いたくないが小学生の頃から釣りが上手い。一緒に釣りに行って、私は何度も煮え湯を飲まされてきた。ただ、サケ釣りだけはどういうわけか全然釣れないのだ。初めてサケ釣りに行ったのは2021年11月の手取川。それ以降、毎年様々な川に行ったものの3年連続オデコ。4年目となる今年も、すでに富山県の小川でオデコを食らっている。

「オオモリ、さすがに今年は釣れるんじゃないか?」

オオモリ「この2日間でなんとか1本釣れれば、それでいいよ」

もちろんオオモリもディープクランクを用意してきたが、まずは手堅くミノーから投げ始めた。すると30分もしないうちに、ロッドがぐにゃりと曲がった。右往左往して手にした獲物は68cmのメス。

オオモリ「俺、このまま釣りしないで帰ってもいいわ」。

4年越しの夢がかなって、オオモリは感無量だ。でも、肩透かしというか、あっけない感じが否めない。

野球で最も感動的なゲームとは、どんな展開だろう?典型的な例を挙げると、9回裏の逆転満塁ホームランでサヨナラ勝ちするのがドラマチックとされている。釣りだって、狙った魚がなかなか釣れなくて、最後の最後にビッグサイズが釣れるという幕切れが、物語としては美しい。最悪なのは釣れないで終わることだが、次に悪いのは何だろう?序盤であっけなく目標を達成してしまい、そのまま何もなく終わるという展開ではなかろうか?世にいう「尻すぼみ」という流れだ。今回、私は釣り開始20分で目標達成。オオモリも30分以内に夢を叶えてしまった。ところが、その後は1本も釣れずに初日を終了。なんとなく、尻すぼみになりそうな気配?

ただ、目標のすべてを達成したわけではない。サケ有効利用調査というのは、基本的にメスが釣れたら漁協に渡して増殖に利用してもらう。釣り人が持って帰っていいのはオスだけなのだ。そのオスも、五十嵐川では1日2本までと制限されている。私としては、当然持って帰って食べたい。というわけで、2日目は「オスを釣る」ことをメインの目標として、モチベーションを上げることにした。宿泊した宿は、昨年と同じJR三条駅の目の前にある「みなとや旅館」。清潔でありながら昭和レトロ感が漂う風情ある客室、手間を惜しまずに作られた美味しい料理、そして真心あふれる接客が嬉しい宿で、今年も迷わずここを予約した。

2日目のミッションは「オスを釣る」

みなとやさんで6時に朝食をいただき、ミーティング開始時刻の7時には余裕を持って鮭小屋に到着。初日と違って準備もできていたので、8時からロッドを振ることができた。夜にまとまった雨が降った影響で、この日は少し水量と濁りが増して、見えるサケが減っていた。でも、8時15分頃にはスプーンで1本釣れて、8時半にはまた「キックバッカ―」で1本。そして、「キックバッカ―」のカラーを変えたら、9時ごろに本日3本目のサケが釣れた!これがこれまでで最大の76cm。しかし、全部メスだったのだ。

「オスが釣りたい」

丸山さん「ディープクランクはメスが釣れやすいって話を、大森さんから聞いたことがあります」

「そうなんですか?」

丸山さんからの衝撃発言!でも少なくともこの日は明らかにディープクランクへの反応がいい。乗らなかったアタリも何度かあったし、バラシもあった。しかも、使っていて楽しいので、きっとオスも来るはずだと思い、ほぼディープクランクで押し通してしまった。基本はボトムノックだが、流心に投げて少しドリフトさせて、ゆっくり巻き始めると「ドン!」と喰ってくることが何度かあった。同じエリアで釣っていた他の釣り人に、80cmクラスのオスが出た。あんなでかいの私も釣ってみたいなあと思いつつ、「キックバッカ―」をドリフトさせて、ハンドルを2回ほど回すと・・・来た。

「こ、これはデカいかも!」

体高が高い!そして「キックバッカ―」を咥えた口は先が曲がっているように思える。やっとオスがかかったようだ。これまでの4本とは全く異次元の引きだったが、7フィート7インチ・ヘビーアクションのベイトロッドに25ポンドのフロロラインなので、冷静にファイトすることができた。メジャーを当てると78cm。80には届かなかったが、十分すぎる大きさだ。この日はオオモリも3本のサケを釣り上げ、尻すぼみではなく、想定をはるかに超える大満足の釣行となった。そして私は2日間で釣った5本のサケのうち、4本がディープクランク!明らかに効果があるといえるのでは?

ディープクランクの有効性とサステナブルな食材

ディープクランクを引き倒してみて、なぜよく釣れるかがなんとなくわかった。漁協の大森さんによると、サケは下向きになってエサを喰う傾向が強いらしいので、ボトムをなめるように引けるディープクランクは理にかなった選択のようだ。しかも短い距離でも激しくアクションするので、たとえ見えるサケがいなくても、偶然サケの前を通過する際に、強烈なアピール力を発揮するのだろう。そして、巨大なリップが障害物を回避してくれるので、根がかりが非常に少ない。

この2日間、ミノーやスプーンはロストしたが、ディープクランクは1個もなくさなかった。様々なタイプを使ってみたけれど、いい感じだったのは「キックバッカ―(デプス)」と、「カスカベル(デプス)」、それから往年の名手「DD22(ノーマン)」だった。釣れたのは「キックバッカ―」のみだけど、「カスカベル」でもいいサイズが2本ヒット。残念ながらバラしてしまったが、あれは針のサイズをもっと上げるべきっだった気がする。

五十嵐川の有効利用調査に参加した際、三条ホテル旅館組合の宿に宿泊すると、割引などの嬉しいサービスがある。中でも我々が宿泊したみなとや旅館さんでは、「釣ったサケを三枚におろしてくれる」という有難いサービスがあるのだ。釣り終了後、早速持っていくとご主人が丁寧にさばいてくれて、調理法まで伝授してくれた。

ご主人「川を上がってきたサケを嫌う人もいますが、同じ新潟である村上のサケは献上品でもあります。新潟の人にとっては昔から貴重なたんぱく源なんです。だから、全部料理するし、捨てるところはほとんどないんですよ」。

身や皮を食べるのはもちろんだけど、エラも丁寧に血を抜き取って、油で揚げるといい酒の肴になる。血合いも1か月塩漬けにしてスライスするとこれまた珍味。本当の手間をかけた伝統的な日本の地方料理には、「臭み」を「旨み」に替える魔力がある。スローガンだけのカッコつけではない、サステナブルの真髄がここにあると思った。今年もいい釣りを満喫できた五十嵐川、来年も行けるかな?

施設等情報

■五十嵐川漁業協同組合
住所:〒955-0191新潟県三条市高岡651
TEL:0256-38-4067(9:00~16:00) 五十嵐川漁業協同組合ホームページ

施設等関連情報

■みなとや旅館
住所:〒955-0862 新潟県三条市南新保15-8
電話:0256-33-1471
     
※記事の掲載内容は公開日時点のものになります。時間経過に伴い、変更が生じる可能性があることをご了承ください。

この記事を書いたライター

横沢 鉄平
フリーライター。ライフワークはバスフィッシングだが、ワカサギから世界の怪魚まで、すべての釣りを愛する男。ロッド&リールの「三匹が行く」、ルアーマガジンの「ドラマチックハンター」など、長期連載企画での出演経験も多数。キャンプ用品の「ヨコザワテッパン」考案者でもある。
YouTubeチャンネル「ヨコテツ」も、ささやかに継続中だ。
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