2019年07月01日公開
黒潮が育む“青物”の聖地「イナンバ」。キハダマグロ、本ガツオ、カンパチ、ヒラマサ…と“泳がせ釣り”や“オフショアルアー”の好ターゲットをストックする大物釣りのロマンが詰まった海域だ。今年も大型のキハダマグロが上がっているとの情報、静岡県・南伊豆手石港『南伊豆 忠兵衛丸』へ駆けつけた。
深夜1時出船の高揚感!
静岡県・南伊豆手石港は、東名高速・沼津ICから1時間45分程。伊豆縦貫自動車道「天城北道路」の開通によって、少しアクセスが向上した。「イナンバ」への遠征船は午前1時出船。0時30分に『南伊豆 忠兵衛丸』に集合、日頃朝の早い釣り人でも異例の“非日常感”に心が躍る。船宿に着いたら、常連さんに習って製氷機からクーラーへ氷を詰め、待合所でお茶を飲みながら談笑。その後、船長が待合所に来て受け付け。済んだ人から各自、車で3分程の手石港へ移動。船着場では横付けに船の支度が出来ているので、船室へ荷物を運び込み、竿はロッドホルダーや手すりにロッドベルト等で固定する。今回乗船した「第二十三忠兵衛丸」の印象はまず“デカい”。安心感ある19tの船体には、2段ベッドが4台、8床ずつ設置された船室が前後に2つ、エアコンも完備。それらをつなぐ洗面所と洋式トイレの付いた広々としたキャビンとスペースたっぷり。釣り場までは片道5時間余り。ベッドに横になり、大物を夢見て英気を養った。
最後の秘境「イナンバ」とは…
「イナンバ」という釣り場について、ざっくり解説しよう。「藺灘波島(いなんばじま)」は、東京都御蔵島村に属する無人島。南伊豆手石港から約110km、神津島と八丈島の中間、御蔵島の南西約45kmに位置する孤立した突岩で、見渡す限りの大海原に突如としてそびえ立つ標高75mの巌は「絶海の孤島」の異名を持つ。水深1,500mの御蔵海盆から急峻に駆け上がる藺灘波島は、黒潮の直中で超大型に育った回遊魚たちが立ち寄る“天然のパヤオ(浮き漁礁)”のような存在。こんなロマン溢れるフィールドが日帰りで楽しめるとあって、ダイバーや太公望が憧れる海域となってはいるが、ひとたび海が荒れれば何人たりとも寄せ付けず、豊かな自然と多彩な魚が護られた「最後の秘境」としても名高い。都心から近くて、おいそれとは辿り着けない。「イナンバ」は、そんな大場所だ。
竿入れからクライマックス!
午前5時30分。エンジンの回転数が下がり、外洋特有のウネリに船が身を任せた。船室を出ると、眼前にそそり立つ「イナンバ」の島影。船は北から島の西側面を進んだ。黒潮が岩肌を洗う雄大さに見とれる暇もなく、海鳥が海上を旋回しながらざわめいて、海面のあちらこちらで立つ水柱に驚かされる。これは本ガツオが海面へ追い詰めた獲物を捕食する際の飛沫。船長は「また近くに来るよ」とこれを追い回さずに、ジギングから始めることを提言。水深80mより上のレンジをチェックするようアナウンスがあった。それから間もなく、左舷ミヨシ(船首)の音喜多さん(川崎市)にファーストヒット。続いて右舷ミヨシの浜田さん(世田谷区)の竿も曲がり、1投目からダブルヒット。取り込まれたのはどちらも2kg級のやんちゃな本ガツオ。アクションは中速の“ワンピッチ・ワンジャーク(リール1巻き、竿1回シャクリ)”。「忙しいな、今日は」と船長の声も明るい。やがて“ロングジャーク&フォール(長いシャクリと見せる沈降)”にキメジ(キハダマグロの若魚)が口を使い出し、あちらこちらの釣り座で本ガツオとキメジのヒットが相次いだ。
跳ねてるキハダは40kg級!
やがて海面を割って跳躍する大型の魚体が目立ち始めた。それは近眼の小生が遠目に見ても識別出来た。弓状の黄色い第2背ビレを持ったキハダマグロ。しかも相当な大物だ。とその時、ワンピッチ・ワンジャークとロングフォールのコンビネーションジャークをしていた音喜多さんに、これまでと明らかに違うバイト(食い)。ズッシリと重量感ある合わせの後「ジッ!」とドラグを鳴らした引き込みの直後に痛恨のリーダー切れ。フォール中のバイトだったのでロングジグが口の中に入り切っていたのか、淡々と釣るスタイルの音喜多さんも流石に船縁に手をつき溜息を漏らした。「今年はイナンバに良い潮が当たって、キハダは30kg、大きいので40kgオーバーが出ています。新しい群れが入って魚影も濃いし、大きい魚が跳ねてるのも見えるので、今後も期待して良いと思います」とは船長。確かに魚影の濃さは特筆で、ナブラ(魚群)やトリヤマは船の周囲360度、到る所で起こり、群れに当たればダブルヒット、トリプルヒットも珍しくない。後は大物と出くわす幸運と、打ち負けない心技体で対峙するのみだ。
船長に訊く、「イナンバ」の釣りのコツ
初めて「イナンバ」に挑戦する人へのアドバイスを浅沼清人船長に訊いた。「自分が“何mから何mに居るよ”“トップの方が面白いよ”と言ったら、それに従って貰えれば。遠征は初めてでも、いつもやってる海域の釣りを応用して貰えれば釣れると思います」とのこと。船宿にルアー用の貸し竿はないが、グラス無垢の泳がせ竿とスルメイカ釣りで使うような電動リールを持っていれば「電動ジギング」が楽しめる。大きく見える200gのジグでもオモリに換算すれば60号以下なので、コマセ撒きやイカ釣りに比べれば、いかなるジャークも楽に感じられる筈だ。さらにこれからの季節は「“多めの水分”と“着替え”も忘れずに」(船長)とのこと。往復の航路が長く、船室のスペースも充分あるので“ちょっと多いかな”くらい持ち込んで丁度良い。船室のトイレにはシャワーもあるので、大きめのタオルもあれば快適な船旅になるだろう。
この夏こそ「イナンバ」へ!
この日の竿頭は本ガツオ8匹、キメジ4匹、ヒレナガカンパチ1匹の音喜多さん。釣行と言えば主に「銭洲」か「イナンバ」に通っていると言う音喜多さんが持ち込んだタックルは、キャスティングとジギングの2セットのみ。ジグは「シルバー1色あれば良くなってきた」と至ってシンプルだ。「遠征船に乗ってる釣り人はマナーが良い。せっかくの休日だから気持ちよく楽しみたい」と語る音喜多さん。言われてみればこの日の船中も肌感として“譲り合い”のムードがそこかしこに感じられた。“遠征=憧れ(めったに行けない)”という印象を小生は抱いていたが、気負わず過剰を削ぎ落とせば、決して夢見るだけの嗜みではないのかも知れない。『勉強しない子どもより、遊びを忘れた大人の方が心配』と言われる現代。夜に家を出て、帰宅するまでの24時間。携帯電話の電波も届かない紺碧の海に夢を追いかける“大人の休日”をご提案したい。
今回利用した釣り船
出船データ
集合時間:午前0時30分(変動アリ、予約時に確認を)
出船時間:午前1時(同上)
乗船料金:2万8,500円(氷付き)
この記事を書いたライター
6歳から釣りに親しみ、海・川・釣堀・湖のルアー・フライ・餌釣りに節操なくのめり込む釣り好き。2019年JGFA沖釣りサーキット・総合優勝/2010年JGFAオールジャパンゲームフィッシングコンテスト・マダイの部・優勝(10.2kg)…他