2016年06月15日公開
パールホワイトの魚体にピンクの側線。「渚の貴婦人」とも呼ばれるシロギスは、第12代将軍・徳川家慶が好んで食べた魚としても名高い。古くは“キスゴ”と呼ばれ、その語源は岸近くに居る魚“岸ご”(「ご」はカサゴやアナゴと同じ魚名語尾)という説がある通り、夏が近づくと沿岸の浅場にやってくる。そんなシロギスの浅場釣りがスタートしたと聞き、梅雨入り直前の6月4日、平和島『船宿 まる八』から出船した。
浅場の初日は117匹の好スタート!
天ぷら種として欠かせないシロギス。実は、スーパーなどで売られているもののほとんどは東南アジアやオーストラリアからの輸入品で、東京湾のシロギスとはその味が異なる。体脂肪率1%と言われるその身質は、グルタミン酸やリジンを多く含み、ジューシーでしつこくない白身の味がすこぶる良い。この上品で飽きのこない旬の味覚をたっぷりと楽しめるのは釣り人の特権だ。水深10mより浅いエリアで釣れ出すとアタリも分かりやすく、手返しも良くなるので、100尾超えの“束釣り”も夢ではない。浅場開幕の5月15日には竿頭117尾という好スタートを切った『船宿 まる八』の乗合船は、7時集合、7時40分に河岸払い。五月晴れの空の下、心地よい風に吹かれて「第六まる八丸」は東京湾へと滑り出した。
ポイントまではプチ東京湾クルーズ
『船宿 まる八』の桟橋は、緑豊かな「平和の森公園」と「大森ふるさとの浜辺公園」に隣接する。そこから首都高速・羽田線、東京モノレール、首都高速・湾岸線を潜り、羽田空港、“風の塔”と、海からの東京観光を小一時間。東京湾アクアラインの“海ほたる”と“アクアブリッジ(橋梁)”を臨む本日のポイント、木更津沖“盤洲”に到着した。
船中一番手は左舷トモ(船尾)の佐藤淳一さん(さいたま市)。120cmのショートロッドにベイトリール(両軸受けリール)という今風のタックルに、胴突き1本バリ仕掛けをひたすら投げてサビく(海底を引きずる)アクティブな“攻めの釣り”が印象的だ。
右舷トモの大堀成男さん(大田区)は、江戸前の釣りが偲ばれる自作の竹竿と、今や懐かしい振り出し式のコンパクトロッドの2本竿に天ビン仕掛け。小田原型オモリを立てては倒すイメージの非常に繊細な誘い“小突き”の様子は、動画をご覧頂きたい。
かくして良い型のシロギスがポツリポツリと上がるのだが、やがて風が強まり、仕掛けが落ち着かないと判断した船長は、パラシュートアンカーの流し釣りからエンジン流しの釣りへと切り替えた。
初心者からベテランまで楽しめるシロギス
漢字で書くと「鱚」。タイやカツオと並んで“おめでたい魚”とされ、江戸時代からレジャーフィッシングの対象魚であったシロギス。その手軽さと奥深さは初心者からベテランまでも魅了する。
「船の釣りは初めて」と言う佐藤那哉さん(大田区)とソフィア・ラーダさん。船長から餌の付け方、誘い方を教わりながら、仲良く5匹ずつを釣った。「船から見る東京湾の景色が良くて楽しい」と笑顔もまぶしい。
お隣の船越一生さん(世田谷区)は49匹を釣ってこの日の竿頭。投げたオモリを海底で跳ねさせるような独特の誘いで、手返し良くワンキャスト・ワンヒット(1投1尾)の好調なひとコマも見られた。
左舷ミヨシ(船首)の金子武春さん(朝霞市)は、会社のみなさんと乗船。「いつもはアジを釣っていて、キス釣りは初めて」と謙遜しつつ、強風でアタリの取り辛い状況ながら25尾と大健闘。社長より多く釣っていたことだけが心配だ。
例年より遅れているが魚は多い
船長の飯島正宏さんに今シーズンの様子を尋ねると「今年は魚が多い」とのこと。取材日は風が強くアタリが取り辛かったり、潮の流れが速すぎて苦戦する場面が多かったため数こそ伸びなかったが、私が20投して12尾釣れたことからも、その魚影の濃さは察しがつく。ただ、シロギスが深場から浅場に上がって来る過渡期にあったこの日は、まだ群れが固まっていなかったため、釣果や釣れ方にムラがあったようだ。
シロギスが浅場に居着いて群れがまとまってくるのはいよいよこれから。ひと潮ごとにサイズアップして、数釣りが楽しめるシロギスの動向が気がかりで、釣果情報から目が離せない日々が続きそうだ。
今回乗船した『船宿 まる八』は首都高速道路・羽田線「平和島出入口」から近く、車でのアクセスの良さもさることながら、京浜急行・平和島駅から徒歩10分。送迎バスもあるので、電車釣行にも便が良い。駐車場から受け付け、船着場が隣接しているうえに段差もなく、女性やシルバー層にもお勧めだ。
この風情、トーキョー・スタイルが粋だ
沖から上がると、朝は受付で働いていたお母さんがお茶とカリントウを出してくれた。かつては名産のウナギに冠せられた“江戸前”という言葉。後に鮨の用語となり、今や築地市場に入荷されればそう呼ばれるまでに領域と解釈は拡大されたが、本来は「江戸の前の漁場」。羽田沖から旧江戸川河口までの小さなエリアのブランド名だったと伝え聞く。夏も近づくこれからのシーズン、浴衣美人のように涼しげで飾らないシロギスを求めて、江戸前から船出する釣り人の“粋”をぜひお楽しみ頂きたい。
今回利用した釣り船
〒143-0011 東京都大田区大森本町2-15-10
(カーナビには東京都大田区平和島5-8-1と入力し桟橋入り口へ、そこからは案内看板で)
TEL:03-3762-6631
定休日:毎週火曜日 釣果・施設情報 船宿 まる八ホームページ
出船データ
出船時間:午前7時40分
乗合料金:8,800円(餌・氷付き)
※女性・中学生以下割引き有り
この記事を書いたライター
6歳から釣りに親しみ、海・川・釣堀・湖のルアー・フライ・餌釣りに節操なくのめり込む釣り好き。2019年JGFA沖釣りサーキット・総合優勝/2010年JGFAオールジャパンゲームフィッシングコンテスト・マダイの部・優勝(10.2kg)…他