2016年07月15日公開
西日本から波及して全国各地に浸透した「タイラバゲーム」。今や関東では一つテンヤマダイ人気に押され専門船も数える程となったが、それでもまだまだ熱烈な愛好家が多いこの釣り。最近では珍しいタイラバ専門船が東海にあると聞き、最近乗合船を就航したばかりの御前崎港『伊達丸』へ7月8日、取材に訪れた。
コマセマダイの聖地・御前崎沖の“タイラバ”専門船
今回伺った『伊達丸』のタイラバは通年片舷でのドテラ流しのため、人数を6名限定としている。そのため週末は満船必至。平日でも予約で埋まることがある人気船宿だ。
それにしても御前崎港は関東人の私が住むさいたま市から直線距離にして片道250㌔以上、約4時間かかるいわば遠征釣りの部類だ。正直そこまでする価値がタイラバゲームにあるのかと道中考えてはいたのだが、答えは・・・最後まで読んでいただければ(笑)、満船になる理由も含めて分かります。
並々ならぬ知識と経験、何よりタイラバに情熱を持った船長
『伊達丸』の舵を握る磯釣りトーナメンターの経歴も持つ御前崎出身の伊藤嘉朋船長は、今や“タイラバ愛”という言葉がピッタリの新進気鋭の船長である。釣行日前日でさえ自身の勉強の為にと、タイラバ釣りの第一人者・中井一誠船長の和歌山県『海竜』にまで釣行するほど熱狂的なのである。
「タイラバは遊動式が主流になって飛躍的に釣果が向上し、より強くなったラインとリールのドラグ性能のおかげで進化しました。それでも日々アタリが異なるタイラバのカラーバリエーションなど、研究の余地があります! こんな楽しい釣りありますか! 日々タイラバのことばかり考えて試行錯誤してますよ」と船長。この“タイラバ愛”、伝わりますか?(笑)
タイラバのセッティングもこの釣りの魅力
出船は午前5時20分で集合は4時50分。初めての人は御前崎港の観光施設「なぶら市場」駐車場で待機していれば迎えに来てくれる。ここ『伊達丸』は前述の通り6名限定の予約乗合である。人気の高さが窺え、平日ながら当日も満船で、今回私は取材に専念。釣り座は出船前に乗船者が「じゃんけん」で決めるというスタイル。出船前のコミュニケーションとして面白い。
定刻通りに出船し、船長より「ポイントまでは30分程走ります。まずは浅場から探ってみましょう」と告げられる。乗船者は各々タイラバのヘッド、ネクタイ、スカート、トレーラーからフックまで、それぞれ工夫を凝らしてセッティングしている。当日の状況を見極めるパイロットルアー(タイラバ)の選択もこの釣りの魅力である。
シャローエリアから開始
航程約30分、「尾高根」と呼ばれるシャローエリアで魚探に映る反応を発見。
「やってみましょう! 水深は22m。イワシかシラスの反応が出ています。これを追ってマダイも入ってきてますよ~。いや~これ、釣れちゃいますよ~♪」とマイクでなく生声で言われたら、嫌が上にも期待は高まるというもの(笑)。
『伊達丸』はドテラ流しのスタイル。船長に聞けば「磯釣りでのウキの流し方と、ドテラでの船の流し方も基本は一緒。要は魚の居そうな所にどうやって流していくかなんです」・・・風や潮を読んで流す。磯釣りでのノウハウに通じる実に奥深い理論である。程無くして船中1匹目に上がったのはホウボウ。そして本命のマダイもキロ弱ながら顔を見せた。
ここで船長にお話を伺う。「タイラバの基本は何と言っても底が取れること。タングステン製は感度が良いのでお勧めですが、比重の重い鉛のヘッドでも十分釣れます。むしろ『ドスン』と落下することで魚にアピールするんですよね。とは言っても海の状況は日々変化しますから、まずは釣れている人のカラーローテーションや、リーリングスピードを参考にすることですね。とにかく正解が無いってくらい奥が深い釣りですから、ハマったら抜け出せませんよ(笑)」
タイラバゲームもマッチ・ザ・ベイト
そして船中1匹目に続き、2匹目も同じ方。「イワシを捕食しているマダイはこのように魚体が白っぽく、逆に甲殻類を捕食している個体は赤っぽくなる傾向がありますね。同じお客さんが連チャンしたのも、マダイのベイトに合っているんでしょうね。こんな所にもヒントがあるんですよね~」と、船長はその情報を乗船者に伝達していく。釣れたタイラバを見るとヘッドはチャート、スカートはグリーン、トレーラーはオレンジである。当たりルアーに合わせるのがセオリーと同船者も似たカラーを選択していく。引き出しを多くして対応する、ここもタイラバゲームの面白い所である。
船長のお手製干物サービスもあり!!
船長は乗船者と会話してコミュニケーションを取りながら、ランディングはもちろん、ネットの魚のハリを外し、釣れた魚は魚種を問わず血抜き、神経締めしてくれる。感動ものなのは外道のサバやイサキまで綺麗に捌いて、要望があれば船上干しにまでしてくれることだ。これは乗船者にその作業をしている時間の分だけ釣りをしてもらいたいという気持ちの表われで、船長自らここまでサービスしてくれる船宿は、少なくとも私は見たことが無い。
時合が来たら怒涛のラッシュ!
8時半に浅根という名前通りの、よりシャローに移動。開始直後は2ノットあった潮流も1ノット前後と落ち着いてきた。潮目も見えるこのポイントでいよいよ御前崎沖のポテンシャルの高さを実感することとなる。時合が来たのか、船中誰かしらにアタリが出だした。食べ頃サイズが中心の中、「これからデカいのが口を使い始めますよ~♪」との船長の予言通り、徐々にサイズアップしていき、潮目の右寄りをキャストして探っていた伊達丸常連の杉山稔さん(浜松市)に一際大きなアタリ! ドラグを唸らせて心地良いファイトで上がってきたのは、乗っ込みの残りを思わせる黒ずんだ立派な魚体であった。
御前崎サイズとはいかないまでも、3㌔前後の良型もダブルヒットで顔を見せ、船長曰くナナマル(70cm)を思わせる強烈な引き込みとやり取りの末のバラシも数回見られるなど、船上は一時お祭り騒ぎ! 船長のランディング時の「ナーイスフィッシューー!!」の歓声も心地良い。
「この時期の浅場で掛けるマダイほど横走りするタイはいないので、やり取りは一際スリリングです。今回はバラシで終わりましたが、だからこそ、この釣りを知っちゃったら止められなくなるんですよ♪」。
また、御前崎沖という豊かな漁場を証明するかのように、マダイ以外の外道も豊富。ヒラメ、イサキ、ホウボウ、トラフグから果てはクエの幼魚まで、高級魚のオンパレードである。この多彩な魚種も魅力の一つであろう。
御前崎沖はタイラバの聖地になりうる!?
後半、時合を過ぎてもポツポツとアタリが続き、結果は船中オデコ無しの2~6匹という結果であった。それでもリリースやバラシなどを含めるとアタリはその倍以上あり、シビアな関東のタイラバゲームを知る人間としては驚愕の成績であった。
「このタイラバゲーム、安定して釣果を出すことが非常に難しい。前日爆釣だったお客さんが翌日、同じタイラバを使って同じ釣り方をしても、結果が出ないなんてザラです。上手な人が必ずしも結果を出せるとは限らない、かと言って結局引き出しの多い方が結果を出す。いや~、こんなに奥が深い釣り、他にありますか?」。
数多の釣りを経験してきた伊藤嘉朋船長が辿り着いた、ある意味究極のゲームフィッシングであるタイラバゲーム。関東というフィールドで修行に近い”痺れた釣り”を経験してきた方に、特にお勧めしたいタイラバの聖地がここにありました。
唯一の心残りといえば・・・私は満船で竿を出せなかったこと。だって、あれだけの釣れっぷり見せられて釣り師としてストレスが溜まらないわけがないでしょ? 近々、に私も取材抜きで再訪する予定です。何故かって? それだけ遠征する価値が十分あるフィールドなのですから。
・・・それが私の答えです。