2022年09月28日公開
「ハゼは秋の彼岸から」、「彼岸のハゼは中風(ちゅうぶ=脳卒中の後遺症)の薬」と言った格言は、ハゼ釣りが庶民の遊びであると同時に食材としてのハゼの価値の高さを物語っている。その“彼岸”も過ぎてハゼのサイズも平均10cmを超え12、13cm級も多くなって来た。いよいよシーズン本番である。今シーズン好調な東京の大河・多摩川の下流、左岸側に流れ込む海老取川合流点付近に出掛けた。
1kg数千円の超高級食材・ハゼ
鮮魚店やデパート、あるいはスーパーマーケットでハゼを売っているのを見た事があるだろうか。東北の一部地方都市での“焼き干し”、佃煮店等での“甘露煮”等の形で売られているケースはあるが、生魚として売られているのを見た事はないはずだ。日本中の魚介類が入荷する東京・築地市場でも滅多に見られない。極々稀にあったとしても1kg数千円(5,000円を超える)の値が付く超高級食材である。これはもうハゼを食べたければ自分で釣って来るしかない。
多摩川下流、海老取川合流点付近を狙う!
シーズン盛期を迎えている中、“江戸前(隅田川水系)”のハゼにちょっとした異変が起きている。猛暑の中で発生した“青潮”以降、隅田川下流左岸側の佃堀を始め、横十間川、北十間川、小名木川などの釣果が激減しているのだ。そんな中、荒川水系の旧中川、旧江戸川水系の各河川、そして多摩川下流域は、比較的安定した成績が上がっている。そこで今回は、多摩川下流の羽田側(大田区)から流れ込む海老取川合流点付近を狙ってみた。
多摩川下流域は、右岸側は満潮時の釣り場だが、逆に左岸側の海老取川合流点付近は、大潮、中潮の干潮時にのみ出没する広大な人工中洲(※五十間鼻)が好釣り場になっている。そこで、大潮周りで午前11時過ぎが干潮時間の9月25日に狙いを絞って出掛けた。
※五十間鼻(ごじゅっけんばな)=多摩川と海老取川の分流点にある石積み沈床。増水時の急流に対する護岸。長さ五十間(約90m)に渡って石を敷き詰めている事からその名がある。
最初の餌付けで5匹のハゼ!
午前9時過ぎ、釣り場に到着すると、既に中州が出現しており何人もの釣り人が竿を出していた。しかし、何故か中州の先端部分には誰もいない。そこで同行の仲間4人と共に迷わず先端部分に向かった。干潮時間までにはまだ2時間程あったが、先端部分だけでも5人で竿を出すには十分なスペースが出来ていた。
小生は、11尺(約3.3m)のテンカラ竿に小型玉ウキ3個を配した半シモリ仕掛け(道糸0.8号、0.5号の引き通しオモリ、自動ハリス止め、ハリス0.6号5cm、流線バリ6号)をセット、餌の青イソメを3cm程に切って岸から3m程の所に振り込んだ。すると待つ間もなく、水中の玉ウキにアタリがあり、次の瞬間、一気に引き込まれた。軽く竿を立てて合わせると、11cm級のハゼが釣れて来た。同じポイントで立て続けにアタリがあり、最初の餌付けで5匹のハゼを釣ったが、いずれも10~11、12cm級で期待していた13、14cmは中々釣れてこない。「たった1、2cmの差なんてどうでもいいじゃないの…」と言うなかれ、この時期の1、2cmの違いは実に大きいのだ。まず、釣り味(手応え)が全く違う、そして13、14cm級なら十分に“天ぷらサイズ”なのだが、11、12cm級の魚体は“太さ”が違うのだ。これは、経験して貰うしかない。1度経験すれば、小生の言っている心境を察して頂けるはずだ。
正味3時間半ほどで258匹!!
暫くすると、先端部分のスペースは更に広くなり、5人が扇状に並んで釣っても十分な間隔を取ることが出来るようになった。同時に先端部分のあちらこちらに川底に隠れていた岩や石が顔を出し始め、水深も浅くなって来た。
そこで、「ここなら超浅場にハゼが突っかけてきているはず…」と思い、2、3歩下がって水深30、40cmラインの辺地寄りに餌を入れてみた。すると、玉ウキを引っ手繰っていくようなアタリで“今日一”の13cm級が釣れて来た。同じポイントで11~13cm級が4、5匹釣れたが、その後は10cm以下の小型ばかりになってしまった。しかし、少しポイントを移動すると、再び11、12cm級がウキを動かし、30分程の間に40~50匹のハゼが釣れた。同行の友人達も少しずつ場所を替えながら次々にハゼを釣り上げて行った。
結局、正午過ぎまでの正味3時間半ほどで納竿したが、トータル258匹のハゼを釣り上げた。サイズは10~12cmが6割、10cm未満が3割、12~13cm級は1割程だった。
中州を狙うなら潮の確認は必須
前述した通り、この場所(中州)は、大潮か中潮回りの干潮時しか出現しないので、出掛ける時には潮の確認は必須となる。尤もこの中州以外にも周辺には潮位に関係なく楽しめる場所はいくらでもある。この日の状況を見る限り、ハゼの魚影の濃さは疑いようがなく、水温が下がる10月末頃までは十分に楽しめるだろう。
ハゼの食べ方は天ぷら、唐揚げばかりではない!!
ハゼと言えば、「天ぷら」、「唐揚げ」が“王道”であることは確かだが、食材としては超一流の魚である。その調理方法は何種類もある。※各種レシピを紹介。
炊き込みご飯
・3枚におろしたハゼの身(適量、皮はひかなくてよい)
・米 2合
・水 適量
・ショウガ 適量
・(好みで)シメジ 半パック
・醤油 大さじ2
・みりん 大さじ2
・料理酒 大さじ2
鱗、頭、内臓を取った身を“大名おろし”で三枚に(中骨も利用するので身と中骨の両方とも洗う)。研いだ米を炊飯器に入れ、醤油、みりん、料理酒を加え、通常の2合の炊飯時の水加減まで水を加えてかき混ぜて調味料を均等に馴染ませる。ハゼの身と中骨を炊飯器にバラバラにして入れ、千切りにしたショウガを加える(好みでシメジ等のキノコを加える)。炊きあがり後に中骨を取り除く(サイズが小さければ骨は気にならない)。茶碗によそい、追加でショウガの千切りをのせて出来上がり。
焼干し風
・頭部と内臓を取り除いたハゼ(頭部を取らない時はエラ、内蔵をしっかり取る)
クッキングシートを敷いたオーブン皿の上に重なり合わないように並べる。140度設定のオーブンで120分程度加熱する(60分で1度上下をひっくり返し、その後30分ずつ加熱して様子を見て時間を調整する)。粗熱がとれたらタッパーに入れ蓋をせずに冷蔵庫に入れさらに乾燥させて出来上がり。
そのままおやつ、つまみとして食べたり、火で軽くあぶって燗酒に入れて骨酒風にしたり、佃煮にしたり出汁取り用にと幅広く利用できる。
柳川風
・頭部と内臓を取り除いたハゼを15匹ほど
・ゴボウ 1/2本
・ネギ(万能ネギでも長ネギでも好みで)1/2本
・卵 3個(溶いておく)
・醤油 大さじ1と1/2
・だし汁 2カップ
・みりん 大さじ2
・料理酒 大さじ1
・酢(酢水用)適量
ハゼは頭部と内臓を取り、軽く塩をふって素揚げにする。ゴボウは笹搔きにして薄めの酢水にさらしておく。鍋に調味料を入れ、ゴボウとハゼを入れて煮込む。火が通ったら、火を止めて溶いた卵を回しいれネギをちらす。さらに蓋をして30秒ほど待って出来上がり。
この記事を書いたライター
美味しい魚を食べるために釣りを始めた食いしん坊釣り人。ハゼ釣りと東京湾のアジ釣りをこよなく愛する。
《黒岩 海牛》
釣り歴60年を超える釣り爺。60を超える国と地域で魚釣りを体験。ジャンルはタナゴからカジキ迄何でもやったが、還暦を過ぎた頃からは、マブナ、タナゴ、ハゼ、手長エビなど淡水区の小物釣り中心に楽しんでいる。