2022年12月05日公開
圧倒的な釣技と、歯に衣着せぬ物言いで磯釣り界のトップアングラーとして活躍している鬼才・松田稔さん。そんな大御所と仕事がしてみたい-と上司に頼み込んで、『釣りビジョン』の長寿番組「伝心伝承」を担当させて貰える事になったのが、今から10年前の夏だった。
「ワシはお前なんか知らん」
スタッフと一緒に車で移動するのが常であり、徳島県・鳴門にある松田さんの自宅に迎えに行くことから毎回ロケはスタートする。そして、この日が初対面。緊張しながらチャイムを鳴らし、扉を開けた松田さんに「初めまして『釣りビジョン』の原です」と挨拶をすると間髪入れず「ワシはお前なんか知らん」。正直なところ「何だ、この人は…」と思ったが、よく考えれば確かにその通りだ。初めて会ったのだから自分の事など知る由もない。
あれから10年。100回以上の取材、永い時間を共有する事で、松田さんの人柄や人間性も自ずと分かって来た。兎に角義理堅く、人情に厚く、時に口悪く、そしてシャイなのだ。
「もっと多くの人に釣りをして欲しいんや」
釣り界の有名人、ロケの移動中や食事中に声を掛けられることも多々ある。これまで数々のアングラーと仕事をして来たが、その頻度は随一。照れ屋なので対応がぶっきらぼうな時もあるが、子供のファンには写真を一緒に撮るなど特に丁寧に接し、気が乗っている時は自前の筆でイラスト付きのサインも書く。これは「“釣り人を増やしたい”、“次世代を担う子供たちには釣りを好きになって欲しい”」という思いがあるから。
嘘か実か「今はそんなに釣りが好きじゃない」と語る松田さん。76歳という高齢になった今でも番組に出演し続けるのは「自分がこれまで楽しんで来た釣りを、もっと多くの人にもして欲しいから」と仰る。糸やウキ、竿などの開発を手掛け続けるのは「釣り人が少しでも楽に魚を獲って欲しいから」。まさに“伝心伝承”。技術もさることながら、釣りという素晴らしい文化・娯楽を後世に残すべく、愚痴をこぼしながら“伝えていく”のが松田稔という釣り人・人間なのだ。
「刺し餌が主体なんや」
グレやチヌの磯釣りだけでなくアユやアマゴの川釣りなど、季節の釣りを楽しむのが松田さんのスタイル。様々な釣りをする事で、そこで得た知識や技術を別の釣りにも応用出来るのがその理由の一つだ。
そんな中でも松田さんといえばやはり巨大オナガグレ釣り。高知県西部・沖の島や鵜来島海域には、60cmを越える巨大オナガが海面を乱舞する。撒き餌には反応するが刺し餌だけは喰わない人知を超えた頭脳。そして掛けた瞬間に襲う驚異的なスピードとパワー。獲れるか獲れないかは腕次第。腕に覚えの“上物師”なら必ずや憧れる魚、それが巨大オナガなのだ。
巨大オナガを仕留めるべく、松田さんが血気盛んに沖の島や鵜来島に通っていたのが2000~2010年代。その様子は「伝心伝承」で何度も取材し、そしてカメラの前で幾度となく巨大オナガを手にして来た。2022年9月26日に放送した「伝心伝承232 特別編~ディレクターズセレクトSP~」内で、これまで番組を担当してきたディレクターに「松田さんの釣りの凄さとは?」という質問をすると、全てのディレクターが「ライン操作」と答えた。確かに松田さんは仕掛けを投入してから、風や潮の状態を読みながらこまめにラインメンディングをし、仕掛けを自分が考える理想の状態に持っていく。カメラはどうしてもウキを追ってしまうが、ウキの様子と松田さんがライン操作する様子を2画面にしたい程、細かくロッドでラインを操っていく。これは全て刺し餌のため。「ウキでもない、オモリでもない、刺し餌が主体として考えないとあかん」と、松田さんは常々口にする。刺し餌を撒き餌の状態に如何に近づけるか。ハリやラインがある限り、完全に同じ状態にするのは不可能なのだが、出来るだけ近づけるために、最適なラインやウキ、オモリを選択し、ライン操作で仕掛けを操っているのだ。過去の番組を観ると、随所にオナガ攻略のヒントがあるので、是非とも「釣りビジョンVOD」でご覧頂きたい。
「観る人が主役でないと…」
「観る人が、面白くて、楽しくて、少し勉強になる番組でないとあかん」。これは「伝心伝承」第1回目で松田さんが語った言葉であり、「伝心伝承200 ~200回記念(前編)~」でも同じコメントをしている。また「ワシでもない、『釣りビジョン』でもない。観る人が主役なんじゃ。そこを勘違いするなよ」と、私を戒める。これを言われる度に制作者として身が引き締まる思いがする。
松田さんがフィールドに出向けば、多くの仲間が集まり、そこは常に笑顔で溢れている。天真爛漫、古今無双の鬼才・松田稔をこれからも追い続けていきたいと思う。
※「伝心伝承117 島根県匹見川~シーズン終盤の清流に喜色満面~」が私の初担当回!
「伝心伝承」は『釣りビジョンVOD』で配信中
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是非、記事と併せて番組もお楽しみください。