2023年05月05日公開
熊本県・五木村の梶原川には餌釣り、ルアー禁止のC&R(キャッチ&リリース)フライフィッシング専用の区間がある。ルーキーフライマンの古希ジイにとっては、川を独り占めにしたような気分にさせられてウハウハもの。ところが残念なことにまだCが無い。Cが無いからRが無い。だから今度こそC&Rをピシャッと完成させるべく梶原川に向かった。
勇んで五木村に向かったが…
実は梶原川へは今期2度目で前回は4月の初め。しかし、増水と濁りで釣りが出来ずに川を見ただけで終わっていた。「今期まだ行ってない山国川もあるじゃないか。それに日田の川にも行っていない。両方とも昔から馴染んでいるカーティスクリークだし、川辺川に比べたらずっと近場じゃないか…」と呟きながらも往生際の悪い古希ジイはやっぱり五木村を目指してしまったのである。
今回は2泊して、「ヤマメに四の五の言わせず徹底して釣ってやるゾ!絶対キャッチしてリリースしてやるゾ」という気概で五木村に向かった。
ところが、現場は何と何と今回も雨。梶原川は濁流。結局、狙いの瀬は2日経っても姿を現さなかった。仕方がない。他を探すことにした。雨でも清浄の川は支流のそのまた支流のずっと上の方くらいしかない。したがって“山のあなたの空遠く”までウロウロし始める。
三角形の頂点Aを目の前にして通行止め、引き返してCからB、そしてA地点にある釣り場へ着いてみると、ここも土砂に覆われて釣り場は消えていた。結局、初日は雨の中の釣り場探しで終わってしまった。こんな目に遭ってしまうと釣りも苦行に近い。嗚呼、今度もC&Rは出来ないのか。
そして2日目、空はやや持ち直して時々晴れ間も見える。梶原川もそうなのだが、川辺川の支流のいくつかは白い土砂を集めて白く濁り、滑るように流れていてどれも同じ表情をしている。そんなことを考えながら走る、走る。
そういえば、昔、餌釣りをしていた頃、大雨でも平気に清浄を保っていた瀬がいくつかあった。ほぼ薮川だが所々空が開いている。フライジイにはそれが50mも続いていれば、充分1日遊ぶことが出来るはずだ。そんな瀬を求めては、拾うように釣るランガンスタイルのフライになりそうだ。
ようやく昔馴染みの瀬に辿り着き、真のヤマメを掛ける!
やっと辿り着いた昔馴染みの瀬でフライを放る。この日は7ftの竿(後述)、実釣はこの日が初めて。2、3番ライン用のこの竿に3番ライン。5Xリーダー9ftにティペットは6X矢引き(約1.5m)。ルーキーのスタンダード仕様である。
虫は飛んでいない。だからマッチはない。それで何でもこいのエルクヘアカディス16番を結ぶ。さて流す、また流す。あれ、黒い影が追って来たと思ったら“モッコリ”出た。掛けた。溜まっていた肩の力が爆発して魚がすっ飛んで来た。ヤマメだ。小さいけれどいたのだ。相変わらずヌーッと顔を出して、パッと魚を散らしてしまうヌートパー状態が続く。枝に仕掛けを取られたり、フライが竿を叩いてしまうこともあった。終いには落ち着いて対処出来るようになったものの、ここは結局1匹で終わる。
そしてまた移動。山道を登り、ようやく着いた時にはもう午後も遅かった。当然ながら瀬は昔とは違う。岩ごと水ごと形を変えている。杣道を手探りで思い出しながら瀬に降りる。ここも清浄、来た甲斐があったと涙ぐみそうになる。
流程は短い、さっさっと釣り上がれば日が暮れることはないだろう。さて放る。仕掛けはずっと同じだ。
開けているので、ヌートパーにならないように、腰にはつらいけれど背を屈めていく。やっぱり私はルーキー。羽虫の様子など何も考えずに、ただただエルクヘアカディスを放り続けている。それでも瀬脇、落ち込みの開きでフライを追ってくる魚がいて1匹掛ける。
今はもう一日中釣り続けることが釣りだと思わない。瀬から上がって深く息を吐いたりすると、短い時間でも集中した釣りは重労働だということが分かる。泥の川を見た時、どうなることやらと案じられたが、清浄の瀬に助けられて、何とか中くらいの釣り日和となった。
糸切れが減って、ティペットや竿について考えたこと
今回ティペットが切れることが少なくなった。ダブルサージヤンズノットのお陰であることは間違いないのだが、糸切れの原因は、どうも私の拙さばかりではないのではないか。結び方の他に例えばリーダー。実は廉価版を練習用に使っているが、どうも硬い気がする。それで、メーカーのスタンダードなものを使い始めた。それで何となくだが切れなくなった。
それに竿もあるかもしれない。今までは手持ちの竿で一番短いのは7ft6inだった。この長さが釣り味を楽しめるギリギリの長さだと思っていたが、そうでもなかった。7ftのよい竿があった。譲り受けたもので注文して造らせた竿だという。振ってみて凄く塩梅がいい。ミディアムファーストアクションということだった。フライフィッシングはルーキーだが、何十年と色々竿を振ってきているので、いい竿かどうか振ってみて分かるということはある。これだったら薮の川でも何とかなるに違いない。
さて、持ち帰ってまた振ってみた。「あれ待てよ、ちょっと長い気がする」と思って測ってみたら7ft2in弱あった。竿には7ftと手書きである。製作者も依頼した人も、そんなことで済んでいた良き時代の“銘竿”だと思うことにした。ちょっと気に入ったこの短竿のお陰か、ビヨンビヨンと跳ね返ることもなく、ティペットが切れることが減った。
最終日釣行!エルクヘアカディスからミッジドライ18番
さて最後の日。昨日の瀬の続きを追うことにした。だが着いてみると車、瀬を覗くと餌釣り師。さてもう一箇所目星をつけていた瀬があった。そこに行くには坂を転げ落ちなければならないのだが、なんとロープが渡してあった。竿をしっかり畳んで降りてみる。大丈夫だ。瀬を眺めているとパシャッと出た。「いいぞ!」。小さい羽虫が飛んでいる。ユスリカだ。いや大きいのもいる。カゲロウと目までは分かるが、その先の科や属は分からない。しかし、それに合わせてフライを選ぶことは出来る。しかし、結局は昨日のアタリバリのエルクヘアカディスを結ぶ。仕掛けも昨日と同じ。
ちょっと陽が差してきた。さっきのパシャッのちょっと先に放って流す、流す。あれ、割とうまく放れたはずなのに。はて、思案。新ロッドは2番ラインもいけるので、こんなこともあろうかとそそくさと2番ラインを巻いたリールに付け替える。リーダーも一つ落として6X9ft。7Xティペットを繋ぐ。ちょっと細仕掛けで大冒険だが、技も精神も試してみる。
さてどのフライにしようか。この迷いが期待に満ちた愉しさなのだ、ということも分かりかけてきている。多めのユスリカに合わせて、ミッジドライ18番を結ぶ。放る、流す、とモッコリパシャッと来た。竿を跳ね上げる。トンと乗った、掛けた。寄せると大きくはないが、この瀬域らしい美しい姿のヤマメである。「やったぜ!出来るじゃないか」。これがまさしくフライフィッシングだ。暫くすると魚が跳ね出した。モッコリのまま姿を消すヤツ、イルカジャンプ、パシッと尻ビレで叩いただけのもの、ヤマメにも個性があるのだ。大小様々な虫が飛び出している。パッと目についた虫に似たフライを選んで替えてみる。ヤマメはどれにも来た。ヤマメの口からハリを外して瀬に放す。仕掛けを整えて、そして岩に腰掛けてちょっと一休み。お茶を飲む、瀬を観察する。ジイちゃん向きのいい遊びを覚えたものだ。
最後に一つ分かったこと
瀬の奥にそびえる堰堤下の淵で2匹掛けて竿を畳むことにした。10匹まではいかなかったが、結構掛けることが出来た空前絶後のフライ経験だった。さて、バラしたりティペットを切ったりしながらも、一つ分かったことがあった。それはフライと糸の放り方が上手くいけば、割と長い時間、魚はフライを咥えてくれているということだ。ずいぶんウスボンヤリした合わせもあったが、それでもハリ掛かりした。至極当然のフライフィッシングの基本のキで、文字から学んだり先達から聞かされていたことだが、ここにきてウスボンヤリながらこれが分かり始めている。
梶原川のC&Rは出来なかった。しかし、代わりに楽しく熱を帯びたC&Rを味わうことが出来た。自分の釣りと幸運にちょっぴり自信が湧いたようだ。自信についてはなんの根拠もないのだが、そうした気持ちを抑えるのは難しかった。雨に始まって辛いこともあったが、怪我もせず嬉しい楽しく佳き釣りだった。
施設等情報
〒866-0651熊本県八代市麦島東町14-1
TEL:0965-32-3266
※オフィシャルサイトあり。「球磨川釣りガイド」のコーナーも設けられて参考になるサイトである。釣況についても問い合わせが出来る。
遊漁料は年券A(全魚種)8,000円、年券B6,000円(アユ以外の全魚種)。AB共通の日券2,000円。
遊漁券販売所についてもオフィシャルサイトに掲載されている。 球磨川漁業協同組合ホームページ
施設等関連情報
五木村は観光地なので道の駅、スーパー、それに温泉施設があって釣りの基地としては最適である。