釣りビジョン

水深4mの湖底からミラーレス一眼を釣り上げ成功!データもカメラも復活したミラクルストーリー!

2024年12月29日公開

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釣りには、大事なものを水中に落としてしまうというリスクがつきものだ。一番多いのは釣り竿やリールなどのタックルだろう。あるいはスマートフォン、車のカギなど・・・落としたのが貴重なものになればなるほど、悲劇の度合いは増していく。今から8年前の2016年、私は買ってからまだ日の浅いミラーレス一眼をダム湖に落としてしまった。ボディとレンズを合わせて総額20万円前後という大打撃。ところが・・・その先には予想だにしないドラマが待っていた!

今から8年も前の話ではあるが・・・

千葉県の房総半島には豊英(とよふさ)ダムと呼ばれるダム湖がある。ここは長年ヘラブナ釣りの人だけにボートをレンタルしていたのだが、2016年にバス釣りにもレンタルを開始。その開始直後は凄まじい勢いでビッグバスが釣れたので、口コミで噂が広まった。当然、私も足しげく通ったのだが、なかなか思ったような釣果は上げられずにいた。

5回行っても、釣れるのはせいぜい1~2匹、最大魚も45cm。知り合いは軒並み55cmクラスを仕留めているのに・・・だ。正直、そんな鬼門となった湖なぞ、忘れてしまえばいいのだが、逆にリベンジの炎がめらめらと燃え上がってしまい、6回目の釣行へと出かけた。それが2016年の5月30日。ボートには、新調した24Vのエレクトリックモーター一式を装備。そして50cmオーバーが釣れた時のために、ミラーレス一眼(オリンパスの「OM-D」)と三脚まで積み込んだ。

想定外のロクマルに絶句・・・

かなりの意気込みで臨んだ私だったのだが、昼までに釣れたのは45クラス1本。このままではいつもの感じで終わってしまう。55cmとは言わない、せめて50cmが1本欲しい。そんな焦りを感じつつ、メインの筋を遡っていくと、最上流の1歩手前のエリアに見覚えのある顔を見つけた。八王子から来た知人コンビだ。

知人A「テッペイさん、今日はエサ釣りでバスを釣ろうと思ってます」

声を掛けるとそんな返事が返ってきた。彼らはフリースタイルな釣り人なのだ。私はそのままさらに上流へ。しかし、1本フロッグでばらしたものの、何の収穫もなく戻ってくると、彼らも撤収の準備中だった。

知人A「あ、テッペイさん、自慢のエレキでボート屋さんまで引っ張ってってください」
「もちろんそのつもりですよ。釣れましたか?」
知人A「釣れましたよ。63と57が」
知人B「50アップばかり5本くらい釣れました」
「え?」

彼らの口から出た数字は、私にとって想定外だったので、一瞬時間が止まった。

「ろくじゅうあっぷ?」
知人「そうですよ。でもエサだから、素直に喜べない感じもあります」

彼らは、一カ所にとどまってブルーギルを釣り、それをエサにしてバスを釣っていた。すると、なぜかデカバスがわいてきて、ガンガン食ってくるとのこと。ヘラ師がゲストフィッシュとしてギルを釣ると、それはびくに入れずにポイッと投げる。この湖では、それを狙って食べるのが、デカバスたちの習慣となっているようなのだ。

 

天国から奈落の底へと突き落とされた気分

2日目、私は当然ギル型のワームと、ギル型のビッグベイト中心に作戦を組み直して豊英ダムに挑んだ。特に期待していたのは「ブルシューターJr.(デプス)」。しかし、この日はヘラ師が多く、意中のポイントにはなかなか入れなかった。午後3時の時点で、私の釣果は40以下のバス1本。私の心はダークサイドに陥り、手が勝手に動いて、フェイスブックに自虐的な投稿までする始末。しかし、ふと気が付くと、昨日の八王子コンビが釣りをしていた場所にたどり着いていた。そう、ギルをエサにしてロクマルが釣れた場所だ。

「ブルシューターJr.を投げよう」

そして、投げた1投目、ワントゥイッチ、ツートゥイッチ、3回目のトゥイッチで水面直下がベロンと白く光った。20mは離れていたけれど、光ったのが見えた。そしてしっかりと重さが乗った。バスだ、間違いない。ファイト中は不思議なほどスリルを感じることがなく、むしろ夢見心地だった。

ネットに入れたバスは、ゆうに50を超えるサイズ。メジャーを当てると、ぴったり50cm。意外にもギリギリだったが、ついに鬼門を克服した。

私は三脚を組み立てて、「OM-D」をセット。スマホの自撮りではなく、ミラーレス一眼でバス持ち写真を撮ることもできた。さて、まだこのポイントで1投しかしていない。次の1投でロクマルが出てもおかしくはないのだ。私は同じルアーを投げ始めた。2投目、そして3投目に事件は起きた。

トランプでピラミッドを作った経験はあるだろうか? あれが、バランスを失って、倒れるような。そんな空気の動きを背中に感じた。

ボッシャーン!

ブクブクブクブクブク・・・。

振り返る途中、私の視界の端が最初にとらえたのは、すでに逆さになった三脚の足が、水中に没していくシーンだった。もちろん、カメラは装着したままだ。レンズも含めて約20万円。さっき撮影したばかりのバスの写真も、もちろんカメラの中だ。私は天国から一気に地獄へと落とされた気分になった。


「魚釣り」より難しい「カメラ釣り」開始!回収用の〝リグ〟を作成

三脚ごと湖に落ちたカメラは、数10秒間はブクブクと泡を出していた。だから、私はある程度の山立てをして、場所を覚えようとした。湖といってもダム湖の上流域なので、左右の岸の距離はせいぜい30mほど。魚探を見ると、水深は4m。回収できない深さではない。もちろん私はサルベージ作戦を開始した。

三脚に装着したカメラを水深4mから釣りあげるためには、やはりどこかに針を貫通させる必要がある。しかし、三脚もカメラ本体も釣り針がかかる場所などほとんどない。可能性があるのはたった1か所、それはストラップだ。私はラインにパンチング用の1オンスシンカーを通し、ビッグベイト用のトリプルフックを装着して、即席のカメラ回収リグを作成。その針でストラップを貫き通すイメージを描きつつ、ボトムを探っていった。

シンカーが着底して、ずるずるとボトムを引いてくると、多くの場合はたい積した葉っぱがフックにくっつく。ダム湖の上流部なんてたいしたものは沈んでいなのので、丁寧に探ればきっといつかはコツンと硬いものに当たるはず。それはきっとカメラである・・・と自分に言い聞かせた。

でも現実は甘くない。たとえカメラにコツンと当たっても、一発でストラップにかかることはまずありえない。当たった場所を正確に記憶して、何度もそこを通さなければならないのだ。しかも、それがカメラではなく、単なる岩だったりしたら、無駄な時間を費やすことになる。

不毛な時間が過ぎた。そうなると、自分の記憶に対する自信が薄れていき、確信を抱いていた捜索範囲も、だんだんその面積を広げていった。

そもそも、あのカメラを回収することに意味なんてあるのか? 「OM-D」は防滴防塵で非常にタフなカメラだが、いくらなんでも、水深4mまで落ちたら無事であるわけがない。間違いなく壊れている。つまり、釣り上げたところで、仕方ない・・・いや、違う。あのカメラには、撮影済みのSDカードが入っているのだ。その中には、落水直前に撮影した50アップの写真はもちろん、娘の写真や旅行の思い出写真など、大切なデータがたくさん入っている。たとえカメラは壊れても、SDカードは生きてるはず。つまり、カメラを回収するというより、データを回収することが主な目的だった。

ボート屋さんには事情を話して時間を延長させていただいた。激闘約3時間・・・午後6時30分ごろ、ついにあきらめた。

ボート屋「明日は定休日だけど、その気があればボート出していいよ」

心配して駆けつけてくれた、ボート屋のおやじさんは、そう言ってくれた。

助っ人モッチー登場!そして、ドラマチックな展開に!

こうして、翌日も回収する決心をした私は、弟子のモッチーに電話をして助っ人を頼んだ。モッチーとは私のライター仲間であり、釣りに関しては私の弟子になる。釣りビジョンマガジンの読者なら「哀れな語り部」として知っているかもしれない。現在は滋賀県に住んでいるのだが、2016年当時は千葉県九十九里町の実家に住んでいたのだ。

「明日時間あるか?」
モッチー「あります」
「実はダム湖にカメラを落としたから手伝ってほしい」
モッチー「浅いなら潜りますよ」
「4mだから見えないよ」
モッチー「4mならいけます」
「死ぬぞ」
モッチー「ウエットスーツもあります」
「だから見えないって」
モッチー「水中ライトつけていきます」

こうしてモッチーは翌朝、住んでる九十九里町から駆けつけてくれた。しかも、ハマグリを取る道具など、地元の漁師に相談して、いろんな役立ちグッズを持ってきてくれた。

ただ、漁師さんが貸してくれた道具はとても使いこなせず、いつしか、二人は昨日の私とほとんど変わらないような、オモリをつけたギャング針で、ボトムを探る作業を続けるようになった。

モッチー「これ、潜っても無理でしたね。濁っていて見えません」
「そうだろ? だから潜るなって言ったんだよ」
モッチー「このままだと、午後までかかりそうですね」
「そしたら、あきらめるか。もう湖流で流されたのかもしれない」

その時だった。何かやたら重いものが私の仕掛けにかかった。それまで、かなり大きな木の枝とかも釣りあげたりしたが明らかに感触が違う。褐色に濁った水の中から、うっすらとオモリと針が見えてきた。その針に刺さっていたのは?

「ス・ト・ラ・ッ・プだああああああああああああ!」
モッチー「マジですか!」

少し離れていたモッチーが、エレキで近づいてきた。ものすごく重い。タックルを両手で支えるのがやっとだ。私は無理をせず、モッチーに取り込んでもらうことにした。

「モッチー! 無理だ、取ってくれ!」
モッチー「はい分かりました」
「モッチー! 早く!」
モッチー「分かってます」
「モッチー、さっさと取ってくれ」
モッチー「ああ、いい感じです!」
「は? オメー、何スマホ見てんだよ」
モッチー「だから、今写真を撮ってます……」
「写真じゃなくて、カメラを取り込んでくれって意味だよ!」
モッチー「あ、そういう意味ですか」

結局、自分で安全にカメラを回収。中にはたっぷんたっぷんに水が入っていて、どう見ても修理不能。しかし、SDカードは完全に生きていて、後ですべての写真データを吸い出せた!モッチーにはお礼として安いステーキをおごった。奴がいなければ、このサルベージはなしえなかっただろう。ありがとうモッチー。

しかし、ドラマはこれで終わりではなかった。

自宅に帰って、念のために保証書を確認してみた。すると、私は目を見張った!なんと「全損保証1年間」と書かれたビッグカメラのレシートが貼られていたのだ。こんな保証に入っていたなんて、すっかり忘れていた!

しかも、これは全損した実物がないと効かない保証だった。つまり、もしあのサルベージ作戦を決行していなかったら、この保証は使えなかったはず。あれは英断だった。定休日にもかかわらず、例外としてボートを貸してくれた豊英釣り舟センターにも、心から感謝している。結局、私はわずかな自己負担金を支払っただけで、カメラのボディもレンズも新品となって戻ってきた。それ以来、カメラや周辺機器はビックカメラで買うことにしている(ホームページを見る限り、現在でも継続しているサービスのようだが要確認)。

豊英ダムは、その後も好釣果が続き、現在も大人気の釣り場となっている。

施設等情報

豊英つり舟センター
〒292-1179 千葉県君津市豊英499-8
TEL:0439-38-2558 豊英つり船センターホームページ

施設等関連情報

営業時間(4月~9月):出船5:45(ヘラブナ釣り5:30)~下船17:00
営業時間(10月~3月):出船6:45(ヘラブナ釣り6:30)~下船16:30
定休日:毎週木曜日
     
※記事の掲載内容は公開日時点のものになります。時間経過に伴い、変更が生じる可能性があることをご了承ください。

この記事を書いたライター

横沢 鉄平
フリーライター。ライフワークはバスフィッシングだが、ワカサギから世界の怪魚まで、すべての釣りを愛する男。ロッド&リールの「三匹が行く」、ルアーマガジンの「ドラマチックハンター」など、長期連載企画での出演経験も多数。キャンプ用品の「ヨコザワテッパン」考案者でもある。
YouTubeチャンネル「ヨコテツ」も、ささやかに継続中だ。
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