2022年08月04日公開
弊誌編集長が赤裸々に語る屈辱の5年間
2017年 初めてキハダマグロ釣りをする。2度挑戦してアタリなし。
2018年 キハダマグロ釣りに行った記憶なし。
2019年 数回キハダマグロ釣りに行くが、カツオしか釣れず。
2020年 6~7回キハダマグロ釣りに行き、何度か掛けたものの全敗。
2021年 4~5回キハダマグロ釣りしたが、最高でキメジ3匹。
これが僕の屈辱的なキハダマグロ史だ。
挨拶が遅れました。初めまして、弊誌「釣りビジョンマガジン」編集長に就任した横沢鉄平です。編集長ですが、積極的に記事も書いていきますので、末永くよろしくお願いいたします。記念すべき初回の記事は、先日行ったキハダマグロ釣りの釣行記にしましょう。ここ数年大人気となっている相模湾及び南沖のキハダマグロです。特に今年は絶好調とのこと。キハダマグロは、もちろんルアーでも釣れるし、巨大な両軸リールで釣るコマセ釣りも有名。でも、僕が主に楽しんでいる釣りのスタイルは「ライブベイト」の釣り。生きたイワシをハリに刺して、それを泳がせて釣る釣り方で「フカセ釣り」とか「泳がせ釣り」とも呼ばれています。
冒頭のキハダマグロ史を見ればわかりますが、僕が初めてマグロ釣りに行ったのは今から5年前。あの時は、連れて行ってくれた友人のコバヤシが念願のキハダマグロを釣り上げ、「3年かかった」といって、感無量になっていましたね。そんな彼を見て、僕はもちろん祝福したのですが、ひそかに「マグロ1匹に3年もかけるなよ」なんて思いもよぎりました。あれから5年……そんな僕は、恥ずかしながらキハダマグロを1匹も釣ることなく、6シーズン目を迎えてしまいました。
今期初のキハダマグロ挑戦は6月下旬。船宿は神奈川県茅ケ崎市にある人気店、『一俊丸』。釣り仲間との日程が合わず、単独での釣行です。朝5時頃に受付をして、5時15分から釣り座の抽選開始。通常、船の釣り座決めは早い者勝ちが基本ですが、『一俊丸』は釣り座を取る順番をくじ引きで決めます。極めて民主的なのです。ただ、くじ運の悪い僕は、なぜか50番とか48番とか大きな数字を引いてしまうんですね。ライブベイト船は2隻合計で36の釣り座があるので、それがどれだけ絶望的な数字かわかるでしょう。「今回も、ダメなんだろうな……」と、抽選箱の中からピンポン玉をつかみ取ると、なんと9番! いや、6番だ! ついに来たのかも? 僕にもキハダマグロが釣れる日が。
半身のキハダマグロをもらうと、こんな落とし穴がある
朝7時に乗船し、しばらくは南沖へとロングクルーズ。その間、リーダーを結び直し、ハリも慎重に結びました。昨年の初回のマグロ釣りでは、その前年の最終日に結んだリーダーをそのまま使って、ファーストヒットのキハダマグロを逃すという悪夢を味わいました。あの時は、途中まで寄せたけれど、勝負を焦ってドラグをちょっと締めたら……結び目でプチンでしたね。敗因がノットだったのか、ドラグだったのかわからないけれど、あの時と同じ過ちは繰り返したくありません。
キハダマグロをまだ釣ったことのなかった僕ですが、一緒に行った友人が釣ったことは2度ほどあります。そんなときは、釣れたキハダマグロの半身をありがたく頂いて帰ることになります。すると家族も喜ぶし、僕自身も食べておいしいので、一時的には「たとえ釣れなくても、食えてよかった」的な気持ちになっちゃいますね。しかし、その先にはとんでもない落とし穴が待っているのです。20kg以上あるキハダマグロの半身をもらっても、とても3人家族の我が家だけでは食べきれません。となると、自然の流れとして、近所の知り合いにおすそ分けすることになります。
娘の幼稚園時代のママ友とか、同じマンションの理事会仲間とか、キハダマグロを差し上げると例外なく手放しで喜ばれます。ここまではいいのです。しかし次の瞬間、彼らは残酷な言葉で僕のちっぽけなプライドをグサリと刺してくるのです。
「テッペイさん、マグロを釣るなんて凄いですね! さすが釣りのプロ!」
その素直な賛辞は、悪気がないだけに破壊力は抜群。
もちろん、笑って受け流してもいいのでしょう。でも、釣り師のプライドはそれを許さないのです。
「……いや、これは俺が釣った魚じゃない。友達が釣ったんだ」
こんな但し書きのような言葉を、どうしても言わなければならないのです。
この屈辱、釣り人ならわかると思います。この段階になっていつも痛感します。ああ、半身もらったのは軽率だったな……と。
ライブベイトフィッシングはイワシのセットがキモ
そんな悲劇的な過去を回想していたら、いよいよポイントが近くなってきました。中乗りさんから、活きたイワシが5~6匹ずつ支給され、船の中もせわしなくなってきました。ライブベイト釣りの仕掛けは単純です。PE5号前後のミチイトに20号前後のリーダー、そしてハリを結ぶだけ。あとは生きたイワシをどう刺すかが一つのキモになります。背掛けにするか、鼻にかけるか、エラブタに抜くか、イワシの活性やサイズによって判断しなければなりません。
仲間うちでは、僕がキハダマグロに振られ続ける最大の理由は、このイワシのセットが下手だからというのが通説です。イワシはいかに優しく掴んで、いかに素早くハリを刺すかが勝負なのですが、僕は手先が不器用なので、もたもたしちゃうんですね。挙句の果てに僕は暴れるイワシをぎゅっと掴んでしまい、ハリを刺し終わった頃にはすでに虫の息になってしまうこともしばしば。慣れた人なら、刺したイワシを海中に投じると、すいすいと沖に向かって泳ぎだします。だが僕のイワシはあんまり泳ぎません。それどころか、そのままゆっくりスローフォールしたり、への字になって水面に浮くだけだったり……。
ところが、この日はくじ運が良かっただけではなく、イワシとの相性も良かったようです。ハリを刺されるまでは素直でおとなしく、水の中では元気いっぱいに泳いでくれました。スピニングリールをフリーにして、チョイ投げすると、イワシが沖へと泳いでいき、スプールからはラインがわらわらと放出されます。これがもしマグロに喰われると、まるでキャスト中のようにシューッと糸がものすごい速さで出ていくのです。
千載一遇のチャンス到来!
2匹目のイワシに付け替えた直後でした。僕は勢いよく出ていくPEラインを、ずいぶん元気なイワシだなあと、ぼんやり眺めていました。
「それ、キハダ来てるでしょ?」
隣の釣り師がそんな声をかけてきたのです。だよね……と心の中で頷いた僕は、ベイルを返して合わせをくれました。もちろん、合わせた途端にドラグが鳴り、フリーにしていた時と、ほぼ変わらないほどのペースで糸が出てきました。
「キハダマグロだ!」
もう、僕は一心不乱に巻き続けましたが、糸は出ていくばかり。本当ならここでハンドルを巻かずに走らせるだけ走らせるのが定石。でも、そんなことはすっかり忘れて、無駄なリーリングを続けました。
やっと最初の走りが終わると、今度はキハダマグロが反転して船の方向へと戻ってきます。本来、この時にラインを巻き取るべきなのですが、前半の無駄なリーリングで体力を浪費したのが悪かったのか、途中からマグロが船の後方へと進路変更。ほぼ先端にいた僕は、船尾への移動を余儀なくされて、右舷で釣りをしていた人たちに謝りながら移動しました。
「なんせ、5年かかったのでスミマセン!」
とかなんとか謝りつつ、皆さんにはいったん竿を上げてもらいました。そうかと思うとマグロがまた前方へと逃走。僕はまた平謝りしながら、船首へと移動。
「5年、5年、5年なんです。ごめんなさい~~~」。
普通、こんなにもたもたしていると、怒号が飛んだりするのですが、みんな5年という年月に同情したのか、優しい目で見てくれました。
激闘の果てに見た景色とは……
船べりまで寄せたキハダマグロは、円を描くようにして最後の抵抗を試みます。なんとかその状態まで持っていきましたが、僕の方が魚より先にグロッキーになってしまい、せっかくポンピングしてもラインスラックを巻き取る力がありません。でも、船べりで百万回転くらい回った頃でしょうか? ついに敵も精魂が尽き果てました。浮き上がった魚体に一俊船長のギャフが入って、試合終了。僕はその場でへたり込みました。
正直ラグビーひと試合分の体力を消耗した感覚です。でも、どこからともなく、ささやかな拍手がわいてきました。ありがとう、みんなのやさしさが無かったら、きっとこのキハダマグロは上がらなかったでしょう。20.9kg、決して大きくはないけれど、キハダマグロを名乗れるサイズでした。その後2時間半は、釣りどころか何もできませんでしたね。ただ、本当の意味で留飲を下げたのは、翌日のことでした。
「テッペイさん、マグロを釣るなんて凄~~い、さすがプロ!」
「いやあ、マグロといっても、キハダだからね(笑)」
胸を張って、おすそ分けできたのです。いやあ、気分良かった。やっぱりキハダマグロは自分で釣らなきゃね。
施設等情報
施設等関連情報
乗船代:20000~23000円
集合、出船時間:その時によって変動
レンタルタックルあり(有料)
この記事を書いたライター
YouTubeチャンネル「ヨコテツ」も、ささやかに継続中だ。