2015年10月01日公開
「タチウオは2度、美味しいー」。釣っては繊細な駆け引きと、豪快なファイト。食べては淡泊でクセのない引き締まった身質、火を通せば溢れ出す芳醇な旨み。夏の頃は浅場で船上を賑わせた若魚たちも、秋の訪れとともに深場へと落ち、その身に上質な脂質を蓄える。そんな“美味しい秋”を求めて、ジグバッグを片手に9月23日、東京は、江戸前『深川 吉野屋』を訪ねた。
隅々までスムーズな船宿!?
朝焼けの首都高湾岸線を抜けて枝川出口を降りると『深川 吉野屋』までは5分たらず。店先にはシルバーウィークの最終日とあって、釣り人が大勢集まっていた。ところが、6時に乗船場のゲートが開くと、あれだけいた釣り人たちがスイスイと受け付けを済ませ、駐車場へ、船着き場へと流れてゆく。朝の手続きが渋滞しがちな船宿と何が違うのかは分からないが、スタッフの配置や案内板の位置に至るまで、シンプルで気が利いているのが有り難い。休日らしくファミリーに人気のアジ乗り合いは2隻出しで、わがタチウオ乗合船は両舷6人ずつとゆったり快適な釣り座での出船となった。
移動時間も楽しい“東京湾クルーズ”
空は晴れて海はべたナギ、風はそよそよ、半袖では肌寒いが予想最高気温は28℃と、これぞまさに絵に描いたような釣り日和。いくつかの橋を潜り、運河両岸の高層マンションを眺め、スカイツリーや東京ゲートブリッジ、羽田空港、アクアライン・風の塔と、ベイ・クルージングでは鉄板の東京湾名所を横目に、船は観音崎沖へと向かった。滑るように進む船の引き波が、いつになく茶色く見えたが「湾奥だけだろう」とさして気にはならなかった…この時は。
8時30分過ぎ、水深66mのポイントへ到着。期待の1投目──だが、誰の竿も曲がらない。船中に「?」の空気が漂うなか、ほどなくして左舷の原沢さん(板橋区)に初ヒット。この時期にしてはやや小ぶりだが「魚はいる」と一同のモチベーションも持ち直した。
天気晴朗ナレド…明暗分ける「釣り人の引き出し」
晴れ渡る空に浮かぶうろこ雲の下、ヤル気は出たが、後が続かない。船長は船団の形成されたエリアへと舳先を向けたが、どの船もおとなしく竿先を下げている。「だから朝イチは船団を避けたのか」と納得しながらの釣り再開。さっそく、先ほどのポイントとは別群れと思われる“指4本”サイズのイイ魚が出るが、魚群探知機には現れては霧散するゲリラのような小さな反応ばかり。「この濁りじゃね~。アジとかは元気だろうけど、こうなると逃げちゃうんだタチウオは。超ビビリだから」と船長もため息混じりの困り顔だ。
そんな中でも釣る人は釣る。片道2時間をかけて群馬県高崎市から来たと言う小林さんは左舷の大ミヨシ(最先端)で様々なシャクリを試しながら本数を伸ばして竿頭に。船長の指示ダナの少し下からシャクリ始め、更に少し上までシャクリ続けていると言う。つまり、他の人より広い範囲を釣っているのだ。また、投入後もアタリのあった水深でリールのスプールを押さえて沈下速度を落とす(ルアー用語で言うと“バイトのあるレンジでは、サミングしてフォールスピードを調整する”)などの工夫もしていた。
船中2位の釣果を上げた原沢さんは「船団では誰も釣れてないから、周りを見回して誰も使ってないジグを使うようにした」とのこと。釣れている人のマネをするのは上達の近道だが、その逆もまた真なり。これはメモですよ。
船長の機転的中!
午後1時30分。タチウオは好転を望めないと判断した船長は、釣り物をサワラへと変更。鴨居沖へと移動した。鳥山と潮目の複合する水深35mエリアでこの読みは見事的中!50cm前後のイナダを筆頭に、70~90cmのサワラが竿を絞り込み、一時は船長のタモが追いつかないという嬉しい悲鳴も。この時期の釣行には青物用のスピニング・タックルやロングジグも備えあれば憂いなし。“本命”が獲れず意気消沈していた釣り人たちにも快心の笑みがこぼれた。
船長に聴いてみた
「大変な日に来ちゃいましたね」と笑う大森健吾船長に、観音崎沖でのタチウオ釣りについてアドバイスをお願いした。
「しっかりシャクって、しっかりジグを動かすこと。観音崎ではこの“ショートピッチ”をメゲずに続けられた人が魚を釣りますね」。また、ワイヤリーダーはジグの動きを悪くするので、先糸には太めのリーダーを継ぎ足すのがお勧めだとか。さらにオマツリやバラシの原因にもなる「スナップ」や「アシストフック」にも注意が必要で、2本入り600円で受け付けに置かれている「特製・タチウオアシストフック」が船長のお墨付きだ。 ──ともあれ、厳しい日もあればいい日もある。秋が深まるにつれて期待される“本命”タチウオのサイズアップもさることながら、イナダやサワラといった“これからの釣り物”の展開もあわせて、釣果情報からますます目が離せなくなりそうだ。
今回乗船した『深川 吉野屋』のルアー・タチウオ。乗船場の風情溢れる佇まいや、電車や車でのアクセスの良さ。東京湾の見どころを網羅する航路と、装備が身軽なルアーフィッシングとの組み合わせは、「TOKYOで釣りをしてみたい」と言う外国からのお客さんにも好適だろう。世界が東京に注目する2020年へ向け「おもてなし」のひとつに、この釣りを加えてみてはいかがだろうか。
今回利用した釣り船
出船データ
乗船料金:男性・9,800円、女性&高校生・7,500円、中学生以下・5,000円
出船:7時/帰港:16時30分頃
※貸し道具あり(1セット500円)
この記事を書いたライター
6歳から釣りに親しみ、海・川・釣堀・湖のルアー・フライ・餌釣りに節操なくのめり込む釣り好き。2019年JGFA沖釣りサーキット・総合優勝/2010年JGFAオールジャパンゲームフィッシングコンテスト・マダイの部・優勝(10.2kg)…他