2015年11月01日公開
「TPP」、「CTR」…アルファベットの略語は数あれど、釣り人なら知っておきたい「LT(ライトタックル)」。道糸を細く、オモリを軽くすることで、リールや竿をコンパクトに軽量化するライトタックルゲームは、ここ数年ですっかり一般的になった。前アタリを取り、積極的な“誘い”やマメなタナ取りで釣果を伸ばすLTヒラメを堪能すべく、ライトゲームのメッカ、千葉県・外房、大原港『つる丸』に出掛けた。
前回出船の竿頭は14匹!
取材の前々日。『つる丸』のブログを見ると「朝からバタバタ釣れて良型も交じり大漁です」との書き込み。竿頭の14匹を筆頭に、12匹、9匹とヒラメとは思えない釣果がズラリ。このところ厳しい釣りばかり見てきたが、「今回は忙しくなりそうだ」とほくそ笑みながら大原漁協直営の海鮮料理店『いさばや』前に到着したのは午前4時。『つる丸』の船着場はすぐ傍だ。降りしきる秋雨の中、右舷3人、左舷3人の贅沢な釣り座での河岸払い。港を出ると、思いの他ウネリがあったが、「外房ならこんなもんでしょう」と、弾む気持ちとフラつく足元でキャビンへと向かった。
“波高ければ、舟高し”
5時50分。太東沖・魚礁まわりの水深30mの通称「ラクダ」に到着。まずはオモリ40号で“エンジン流し”の釣りからスタートした。 このエリアは船団が形成されていたが、なにしろ波が高い。とは言え、潮と潮がぶつかるからこそ波は高く立つのだ。「これはきっと好ポイントに違いない」と気持ちを鼓舞していると、左舷胴の間(中央)の野沢さん(江東区)に船中1匹目が来た。ほどなくして左舷トモ(船尾)の根本さん(葛飾区)にも強烈な引き込みで2kg級が上がった。どちらも孫バリをノド奥まで飲み込むヤル気満々のヒラメだ。雨脚が強まり、更に風まで出てきたが、釣り師たちは弱音を吐くこともなくせっせと釣りに励んでいる。困難な時ほど、本人が気付かぬうちに人はレベルアップすると言う。「水増さば、舟高し」。忘れかけていた『葉隠』(はがくれ=1716年出版、肥前国佐賀鍋島藩士・山本常朝著)の一節を思い出す光景だった。
雨ニモマケズ、風ニモマケズ…
白い波頭が見え始め、船長は「メーネ」と呼ばれる根掛かりのない水深18mのエリアに船を移動させた。オモリを60号に替えての“横流し釣り”になった。 この浅場がライトタックルの大舞台で、餌のイワシが暴れるタイミングは勿論、どの方向に逃げたかまでが竿先に現れる。こうした変化を見ながら竿先を送り込んだり、はたまた竿先を上げて広範囲のヒラメに餌の存在をアピールしたりして“食わせのキッカケ”を作っていくのがLTヒラメの醍醐味だ。 この日の竿頭は津田大樹さん(大網白里市)。釣りの決め手を尋ねると、「耐えることです」と一言。ハリ掛かりはしないがイワシに噛み跡が残る謎のアタリ(サバフグ?)や、ミヨシ(船首)では立っていられないほどの厳しい天候に悩まされそうだが、良型を含む4匹と大健闘だった。 次頭は右舷トモ(船尾)の古山和夫さん(千葉県・長生村)。フグのカットウ釣りが好きで「待つ釣りが苦手」と謙遜しながら、LTヒラメならではの“攻めの釣り”を展開し、見事3匹をゲット。写真で見ると左手に持った魚が目立つが、実は右手の2匹も肉厚で上等なプロポーションだ。 釣行日や対象魚は選べても、天候や海況を選べないのが自然相手の沖釣り。LTでは難しい「波の高い日」や「潮の速い日」の予備に、80号以上のオモリを背負える通常のヒラメ竿も持ち込めば、転ばぬ先の杖となるだろう。
悪天候の中、“ボウズ”なしの釣果
結果、「海況が…、天候が…」と厳しい状況でありながら、フタを開けてみれば釣果は2~4尾で“ボウズ”なし。忍耐強く釣りと向き合ったみなさんの頑張りもさることながら、この海のポテンシャルと、船長の「釣らせる意気込み」には驚かされた。 岩瀬松男船長は、「解禁直後はみんなに釣らせてあげられなかったけど、最近になって釣果も上がって来た。今は根に付いたアジを食ってるようだが、今後、北からイワシが入ってくれば、大原沖が楽しみになる」と今後への期待を語っていた。大原沖の水深50mラインには大物が潜むポイントもあるそうなので、例年『つる丸』で大物が上がる11月に焦点を合わせて足を運んでみてはいかがだろう。 また、この日、上乗り役をしていた正尚若船長から「血抜き」と「神経締め」を教わった。釣ったヒラメの死後硬直を遅らせて2、3日後でも美味しく食べるためのひと手間なのだが、図解や言葉では伝えきれないので興味のある方は是非船上でマスターして欲しい。「船で言ってくれればいつでもやりますよ」と若船長。
※ヒラメの道具も変われば、外房の遊漁船も変わった。手際の悪い釣り師に「あにしてっだお!」と一喝する船長や、トイレやキャビンのない釣り船などはすっかり見掛けなくなった。「外房は上級者向け」という印象も、今や過去のモノとなったようだ。東京湾アクアラインと圏央道の延長で首都圏からのアクセスが良くなった大原港。名物のヒラメは、LTによってさらに身近な釣りものとなった。『つる丸』には無料の貸し竿もあるので、未体験の方も是非チャレンジして頂きたい。
この記事を書いたライター
6歳から釣りに親しみ、海・川・釣堀・湖のルアー・フライ・餌釣りに節操なくのめり込む釣り好き。2019年JGFA沖釣りサーキット・総合優勝/2010年JGFAオールジャパンゲームフィッシングコンテスト・マダイの部・優勝(10.2kg)…他