2015年11月15日公開
濁りのない大きな瞳と、端正に整った見目麗しい魚体、釣っては鋭角的にグイグイと持っていく激しいファイト、おまけに食味はきめ細やかで、甘く上品な脂質をじんわり全身にまとっている──。そんな、釣り人を悩ませる“罪作りな魚”を求めて、3日に千葉県・洲崎『佐衛美丸』を訪ねた。
魚を知る人に定評ある魚、カイワリ!
「刺し身で美味しい魚は?」と尋ねられたら、あなたは何と答えるだろうか。マグロ、アカムツ、マサバ、寒サワラ…どれも正解なのだが、この問いに「カイワリ!」と即答する人がいる。しかし、このカイワリ、鮮魚店やスーパーに並ぶことはまずないし、アジやイサキのように数を釣って楽しむ魚でもない。何とも悩ましい魚である。『佐衛美丸』では、そんなカイワリの予約乗り合いを今年も11月からスタートさせた。
“出陣”は夜明け前!
午前5時。集合した釣り人たちは、船長に呼ばれた順に乗船し、好みの釣り座に着く。予約乗り合いなのでコマセやオケのセッティングはすでに万全。右舷4人、左舷4人と祝日にしてはゆったりの釣り座で、5時30分に出船した。 若干のウネリの中、のんびり走って15分後には最初のポイントに到着。サバが邪魔をしたり、潮が速くてオマツリしたりと、状況としては難しいスタートだったが、やがて潮が落ち着くとキダイ(レンコダイ)や良型のウルメイワシに交じって“本命”のカイワリが上がり始めた。ここで特筆すべきことは、この時点で誰一人コマセを撒いておらず、終始コマセを使わない方も結構いたことだ。
“幸運の女神に後ろ髪はない”
このカイワリ釣り。釣り方は決して難しいものではなく、仕掛けを投入して90~110mの海底まで沈め、竿先をゆっくり誘い上げながら、上げた分を巻き取る。これを数m繰り返したら、再び仕掛けを海底まで沈めてを繰り返す――というもの。釣り座によっての好不調はあまり感じられない。ところが、餌の付け替えやオマツリほどきなどで、食いの立つタイミングに仕掛けが海底付近に入っているか否かは非常に重要で、これを逃すと、どんなに精緻で繊細な釣りをしても、カイワリの顔は拝めない。逆に言えば、そのタイミングさえ外さなければアタリは明確だし、口が弱いとは言え、突っ込んだ際に竿先を送るなどして丁寧に上げてくれば、口切れを頻発するような魚でもない。1匹掛かったら、ゆっくり手巻きで10mくらい上げてくれば、追い食いも十分期待できる。全てはタイミングと言っても過言ではない釣りなのだ。まさにレオナルド・ダビンチの言うとおり「幸運の女神に後ろ髪はない」。振り返ればチャンスだったことは誰にでも分かるのだが、それでは時すでに遅し。幸運と鉢合わした時、その前髪(恩恵)を掴める人は少ない。
そこで、取材当日の竿頭はどんな釣りをしていたのかを聴いてみた。左舷胴の間(中央)で釣っていた釜井昌二さん(志木市)は、この船ではポピュラーな道糸PE3号に、船宿仕掛けを使っていた。ところがプラビシは用いず、テンビンにはスカリーライトの80号を付けていた。潮が速くオマツリしがちな状況では、一見合理的に思える細い道糸を使うより、ほどきやすい3号くらいの道糸で、テンビンやオモリを潮切れの“良いモノ”に交換する方が得策のようだ。さらに裏ワザとして、釣れたサバで短冊餌を自作していたのだが、これをオキアミと同じサイズにすることで魚の釣り分けを試みていた。このあたりの創意は他の釣りにも通じる引き出しなのでメモしておきたい。
決め手は“船長の経験”と“GPSデータ”
この日の釣りを船長に聞いてみた。潮が緩むまでコマセを撒くよう指示を出さなかったのは、サバよけのためで、80号オモリを付けていれば、必ずしもビシを付けなくて構わないとのこと。また、誘い方は仕掛けを踊らせるような鋭いシャクリではなく、竿先をスーッと持ち上げて“聴き上げる”ような誘いが基本とのこと。これは相模湾や駿河湾のカイワリ釣りとは180度違うので、経験者ほど注意が必要だ。
また、船中が一斉に釣れ出す時間帯があったり、逆にアタリが遠のく時間帯にパタパタっと食い始めたりするのは、“潮の変化”と“魚のいる場所”が重なった時だそうだ。必ずしも魚群探知機に反応が映るとは限らないカイワリの場合、船長はこれまでの経験やデータで魚を捜しているとのこと。そう言って見せてくれたのはGPSに記録された事細かなデータ。これは、これまでカイワリが釣れた箇所を一つひとつ記録したものだと言う。点の集まっているエリアが“カイワリのポイント”ということになるのだが、そこには岩礁や海草があるわけでも地形変化があるわけでもない。デジタルなのに何とも神秘的なハナシだ。
カイワリ以外の豪華ゲストも嬉しい
かくして当日の釣果は1~6尾で、平均3、4尾と、シーズン開幕直後にはよくある控えめな数字となったが、あくまでもこれは「カイワリの釣果」。五目釣りと掲げているのは、“外道”と呼ぶには申し訳ない魚たちが交じるためだ。
この他にも大サバやウルメイワシ、オニカサゴに沖メバルと、これからの季節に味覚を増す魚種がクーラーを賑わせた。 当日、42cmの見事なアマダイを釣り上げたのは南部新五さん(葛飾区)。シャクリの幅を小さくしたり、通常より高いタナまで誘い上げたりと様々なパターンの誘いを試みて、ほかにも多くの魚種を釣り上げていた。
「今年はどこに居るのかを探している」と言っていた早川船長。その後、日を追って釣果が伸びている。 今シーズンは、是非南房総へ足を運んで、釣らなきゃ味わえないカイワリの“釣味”と“食味”をご堪能頂きたい。ちなみに、カイワリの皮を剥くときは、包丁で引くのではなく、手でやさしく丁寧に剥がすことを強くお勧めしたい。食べるときの見目と旨みが違います。
今回利用した釣り船
出船データ
料金:1万500円※アミコマセ、付けエサ、氷つき
仕掛け:船内で購入可能
集合:午前5時集合
出船:5時30分(※予約時に確認のこと)
※釣り座は予約順(船長の指示があるまで乗船不可)
この記事を書いたライター
6歳から釣りに親しみ、海・川・釣堀・湖のルアー・フライ・餌釣りに節操なくのめり込む釣り好き。2019年JGFA沖釣りサーキット・総合優勝/2010年JGFAオールジャパンゲームフィッシングコンテスト・マダイの部・優勝(10.2kg)…他