2015年12月01日公開
東京湾のタチウオが好調に釣れ続いている。しかも釣れているのは金沢八景沖から剱崎沖と広範囲で、竿頭は50匹、70匹という驚異的な釣果。水深100mより深いエリアでこの数が釣れるなんて…。東京湾には“千本刀”どころか“万本刀”のタチウオがひしめいているのだろう。この妄想に居ても立ってもいられず、川崎『つり幸』で“刀狩り”に挑んだ。
“好釣記録”更新中の東京湾・タチウオ
産業道路沿いにある『つり幸』の駐車場には、午前5時30分頃から釣り人が集まり始める。取材日は22日の日曜日。誰もが混み合うことを予想して早めに足を運んだのか、6時には受付が大賑わいとなった。連日の好釣果にタチウオ船は大盛況で、夜明け前から2隻出しが決定。私が乗船した2号船は、ミヨシ(船首)側にジギングのルアーマン6人が相乗りし、右舷11人、左舷11人で6時50分に離岸した。
まさか「昨日までは良かったのに…」か!?
船は1時間程走って久里浜沖に到着。船長曰く、「前日調子の良かったエリア」とかで、水深は100m程。魚群探知機の反応を見て、その都度誘い方のアドバイスやシャクリながら探る水深がアナウンスされる。そんな中、船中1匹目を釣り上げたのは、職場の同僚女子2人に釣り指南をしながらジギングをする大橋さん(大田区)。そこからポツリポツリと、数分おきに船中誰かが釣り上げるという緩やかな状況が続いたが、釣果情報を賑わせた「絶好釣!!」というムードとはほど遠い。これが“幽霊”と異名をとるタチウオに時々ある現象で「昨日までは良く釣れたんだけど…」というボヤキを聞くのも“タチウオ釣りあるある”の一つだ。その後、吹き止まない風に煽られながら水深130mの下浦沖に移動してもタチウオのご機嫌は好転せず、潮が流れ始めるとオマツリ騒ぎも続発し始めた。
拝見“釣れる人”のテクニック
こうした厳しい状況の中でも“釣れる人”というのは確実に存在する。最終的に竿頭となった渡辺蔵人さん(横浜市)は、道糸2号にオモリ80号という昨今のタチウオ釣りでは標準的なタックル。船宿仕掛けのハリス7号2.3mの1本バリを使っていたが、これはオマツリを避けて手返しを良くするため。よく行くという“ライトタックル五目”で鍛えたシャクリを根気よく続けていた。
惜しくも2番手となった長井信夫さん(中野区)も道糸2号にオモリは80号。潮が利いてオマツリが増えたところでオモリ100号と1本バリに仕掛けを交換していた。アナウンスされる水深を間違わず探る事と、餌の確認を定期的に行う事。“釣れたタナ”を覚えておいて、「その水深を意識して丁寧に探ることを心掛けた」との事。竿元部に右手をそえて竿を煽る“疲れないための所作”も、安定したシャクリの持続に貢献していたようだ。
ハニースポットへ急行!!
こうした“辛抱の釣り”に釣り人たちの疲れが見え始めた10時50分。無線連絡を受け、船は崎沖へ急行。水深は150mとこれまでより一段と深いが、投入直後から“爆釣”タイムに突入!仕掛けの投入ごとにアタリがある“入れ食い”モードに船中が沸いた。
女性一人でも来やすい船宿
タチウオに限らず『つり幸』には女性やお子さんが多い。月に2回は沖に出ると言う新木木の実さん(群馬県太田市)は「女性一人でも来やすい船宿」と太鼓判で、この日はタチウオ初挑戦のお友達を連れての乗船。一方、サーフィンやSUPとマリンスポーツ万能の栗田さん親子(調布市)は、「都内からのアクセスの良さが魅力」とお気に入りで、息子さんの怜くんは船縁から竿を出せるようになった年齢からこの船宿を利用していると言う。
割引料金の設定や、貸し道具の充実に加え、船着き場の近くまで自動車で来て、荷物を降ろしてから駐車場へ停車することができるのも、女性や年配の方には嬉しいシステムだろう。釣りのスタート前に船長から餌の付け方や釣り方の説明があるので、初心者は勿論、中、上級者にも基本の再確認やスランプ脱却の糸口にもなるので、聞き逃さないよう要チェックだ。
深場の釣りだからこそ…
この時期のタチウオ釣りについて、幸田船長に聞いてみた。
道糸が1号ならオモリは60号、2号で80号、3号で100号、4号で120号を使うことと、“底から何mまでを探って”という指示タナを必ず守る。シャクッた後、竿先に集中して、アタリがあったら食い込むまで待つ。アタってハリ掛かりしなかったら、仕掛けを回収して餌のチェックをする。よく釣れている人のシャクリ方やリズムを真似たり、魚の掛かった水深を聞くことは恥ずかしい事ではないのでどんどんやること。また、なるべく2本バリの仕掛けを使って、食いの立つ時合に2尾掛けを狙うことがキモだそうだ。
特に深い水深を狙うこの時期は、仕掛けの投入・回収の回数が浅場の釣りより格段に減るので、ハリ数の違いが釣果に表れやすい。2隻出しとなった取材日は、餌釣り師だけが乗船した1号船ではオマツリが少なく、主に2本バリを使う事によって概ね1.5倍の釣果をあげていた。また、オマツリやタチウオの歯による道糸の高切れもよくある釣りなので、道糸やリールの予備を持参すれば転ばぬ先の杖となるだろう。
食味も絶品なタチウオ
かすかなアタリからハリ掛かりまでの繊細な攻防と竿を引き絞る力強いファイト。その釣り味も魅力だが、この時期のタチウオは食べても素晴らしい。刺し身、カルパッチョ、塩焼き、ムニエル、煮付けにアクアパッツァと和洋中どんな料理にもマッチする淡泊でクセのない味わいと、ジューシーで豊潤な脂質。特に1mを超える大型は、味わいが格段にアップするので、同じ群れの中でも泳層を見極めてサイズアップを狙って釣るのも面白い。
寒さが増すにつれサイズも旨みも一層増すタチウオ。ナギナタと七つ道具で“千本刀”の刀狩りを目指した武蔵坊弁慶よろしく、釣り竿と電動リールを武器に、東京湾の太刀魚狩りをぜひご堪能して頂きたい。
この記事を書いたライター
6歳から釣りに親しみ、海・川・釣堀・湖のルアー・フライ・餌釣りに節操なくのめり込む釣り好き。2019年JGFA沖釣りサーキット・総合優勝/2010年JGFAオールジャパンゲームフィッシングコンテスト・マダイの部・優勝(10.2kg)…他