2016年03月15日公開
「梅は咲いたか、桜はまだかいな」と春を待つ声はよく耳にするが、世の中には、去る冬を惜しむ“人種”もいる。スキーヤー、花粉症の人、ヒラメ釣り師である。ヒラメの旬は、身が締まり、脂の乗った冬。“寒ビラメ”と呼ばれ珍重される、産卵期直前のヒラメを求めて、1年の半分以上をヒラメ狙いで出船する、外房・大原港の『初栄丸』に出掛けた。
大原港は平日も大盛況!
「夷隅東部漁業協同組合」のある船着場に到着したのは午前4時。集合時間の30分前だが、平日にも関わらず港には釣り人たちの多くの車が集結していた。予約をすれば無料で宿泊できる棟の玄関先にあるホワイトボードで釣り座を確認、港に戻ると漁船や乗合船にも灯りがともり始め、港はにわかに活気づいた。
『初栄丸』の勝見雅一船長と女将さんは、釣り人にライフジャケットを配ったり、荷物運びを手伝ったりと、フットワークと手際の良さが気持ちいい。
5時に餌の活きイワシが積み込まれると、左舷5人、右舷6人の釣り師を乗せて夜明け前の海へと出船した。
1投目で船中4匹!
5時30分、太東沖・水深20mの釣り場に到着。船長からスタートがアナウンスされ、仕掛けが着底するや否や、右舷2番目の飯島正和さん(葛飾区)の竿先が海面に引き込まれた。これを合図に次々と竿が曲がり、1投目にして船中4匹。ウネリが高くやや釣りにくい状況だが、釣り師のテンションはそれを上回る熱さで波及した。
ヒラメ釣りと言えば、3m前後の長竿をロッドホルダーに預けて釣る“置き竿”と、10年ほど前から主流となった2.4~2.7mの竿を用いる“手持ちヒラメ”。そして近年流行の兆しを見せている2~2.4mの軽量竿とPE1.5号前後の細い道糸を用いる“ライトタックル(LT)・ヒラメ”の3種類があるが、『初栄丸』ではその全ての釣りを楽しむことが出来る。
風やウネリの影響を受けたこの日は、船の揺れを釣り人の腕でかわせる、やや重めのオモリで仕掛けが落ち着きやすい“手持ちヒラメ”が優位だったようだ。
シルバー層にも人気の船宿
今回の取材で気付いたのは、『初栄丸』にはシルバー世代の釣り師が多く乗船していること。 藤井弘さん(木更津市)は「アジやイサキのシャクリ釣りは腰が痛くて出来ないけど、タイやヒラメならまだまだ」と『初栄丸』に通っていると言う。この日も良型3匹を含む5匹を釣り上げていた。
ヒラメ釣り歴50年の中村蔵雄さん(千葉市)は、良型5匹を釣り、「ようやくコンスタントに釣れるようになりました」とご謙遜。「ヒラメは冬の方が美味しいけど、これからは寒くないから良いよ」と“追い込み”の今シーズンを語る。
川附敏治さん(船橋市)は都内からの電車釣行。JR外房線に揺られてビールを飲みながら帰るのも楽しみなのだとか。前日から無料で宿泊出来たり、最寄り駅(JR外房線・大原駅)までの送迎も嬉しいサービスだ。
シルバー世代に限らず、釣り人が楽しく釣りをするためのサービスや気配りが至る所に感じられる。音楽を掛けたり、トイレやキャビンが清潔で快適だったりと、その行き届いたアメニティは女性客にも安心だろう。
船長の目立て的中!
沖上がり1時間前の午前10時半過ぎ。船を大きく走らせた船長は、水深13mのポイントで投入のアナウンス。これまでの澄み切っていた潮とは一変、濁りの入った鳥の多いエリア。「ここだけ潮が止まって濁っているから、イワシが居るかも知れない」──そう見立てた船長の読みは見事的中!10時55分、山本泰詩さん(葛飾区)の竿がグイグイと絞り込まれた。沖上がり30分前、最後の最後に上がった大物は3.65kg。ここまでソゲ(小型)1匹でしょんぼりしていた山本さんに、ガッツポーズと快心の笑みがこぼれた。
当日の“竿頭”は藤井洋昇さん(葛飾区)で、釣果はなんと7匹。「オモリが底をトントンするかしないかの、ちょっと上」という釣り方で一日を釣り切った。
まだまだ大物は居る!
「今年は例年と違う」という船長に、今シーズンの状況を聞いてみると「潮が澄んでいてイワシが大原まで降りてこない。北上して根のないところでイワシに付いているヒラメを追っている」ということだった。
今シーズンは、全般に型もよく、取材前日には5.04kgの超大物も釣れている。取材後も3kgクラスをコンスタントに上げており、船長の頑張りが見て取れる。音楽が好きだったという先代の趣向を受け継ぎ、船を大事に磨き上げて駆使する姿も、常連さんたちの心をひき付ける。
ちなみに勝見雅一船長の好みはスラッシュメタルで、この日、操舵室に掛かっていたのは「Megadeth」だった(分かる御方がニヤッとしていただければ幸いです)。
お刺し身以外の料理も是非!
例年だと4月いっぱいまで楽しめる大原発のヒラメ。産卵前で味も良く、道辺に咲く菜の花も見ごろのこの時期が一押しだ。沢山釣れたら、いつものお刺し身や昆布締めに加えて、ムニエルやアクアパッツアと言った洋食にもチャレンジして頂きたい。あの味を体験したら、あなたは冬のヒラメ釣りがもっと好きになること請け合いだ。
この記事を書いたライター
6歳から釣りに親しみ、海・川・釣堀・湖のルアー・フライ・餌釣りに節操なくのめり込む釣り好き。2019年JGFA沖釣りサーキット・総合優勝/2010年JGFAオールジャパンゲームフィッシングコンテスト・マダイの部・優勝(10.2kg)…他