2016年11月01日公開
マダイの美味しい季節をご存じだろうか。「さくら鯛」、「乗っ込みマダイ」と呼ばれる春先のマダイは、日に日に暖かくなる陽気と相まって華やかに思える。一方、秋が深まり冬の足音を感じる頃、マダイは低水温に備えて荒食いを始める─はたしてマダイが美味しいのは、春なのか、秋なのか?いくつかのテンヤとロッド1本を持って、茨城県・日立久慈港『直重丸』へ出掛けた。
意外と近いぞ、日立港
『直重丸』の集合時間は午前5時。目印となる「日立港入口」交差点のコンビニエンスストアに到着したのはその1時間前。途中、サービスエリアに立ち寄ったりしてのんびり来たのだが、日立久慈港は首都圏から意外と近いのだと実感した。船着場に行くと、大船長の宇佐美勝幸さんが船を横付けに着岸して、釣り人を迎える準備をしていた。やがて、軽ワゴンとテーブルの受付が設置され、乗船名簿の記入と支払いを済ませた釣り人たちは、5時過ぎには釣り座に揃った。夜明け前の午前5時20分、片舷6人ずつの割には広々とした釣り座で河岸払い。若船長・智大さんが操船する「直重丸」は、沿岸を北上して高萩沖を目指した。
一つテンヤマダイとは……
一つテンヤマダイとは何か。ざっくり説明すると、そのルーツは“手バネ竿シャクリ”や“ビシマ釣り”と呼ばれる伝統釣法にまで遡る。これを現代の道具に置き換えて、PE0.8号というの細い道糸に、2~3号のリーダー(ハリス)を直結し、その先端に“タイテンヤ”ないし“タイカブラ”と呼ばれるオモリの付いた釣りバリを結びつけて、エビを餌に釣る手法で、このスタイルが普及してから、実はまだ10年も経っていない。糸が細いので、魚の引きに合わせて糸を送り出すリールの機構・ドラグの調整や、冷凍エビの溶かし方、餌の付け方など、この釣りには釣り人それぞれの細やかな工夫と拘りがあって、これを私のようなフリークが語り出すと止まらなくなるので、今回は割愛する。とにかくシンプルにして研究され尽くした、古くて新しい釣法なのだ。
秋空は高く、海原は凪いで
やや風はあるが、ベタナギの海を走ること1時間弱。最初の釣り場は高萩沖・水深25m前後。5号のテンヤでもあまり流されることはなく、底は取りやすい。
釣り開始から10分後、船中1匹目を上げたのは左舷トモ(船尾)の関浩士さん(伊勢崎市)。マメに餌を付け替える手堅い釣りが功を奏した。海底付近はアタリが多いのだが、餌盗りのベラであったり、根掛かりしたりと、やや難しい状況がしばし続いた。それでもポツリポツリと“本命”が上がり、船上はのんびりとした和やかムードが漂っていた。
マダイ釣りは難しい?
船中で3番目に“本命”を釣ったのは星野湊くん(10歳)。テンヤマダイは勿論、魚釣りが初めてとのことだが、開始間もなくマダイを釣り上げた。程なくして妹さんの妃毬ちゃん(7歳)にもヒット。こちらも人生初の釣果がマダイとなった。ここでまだ釣れていないのは、お父さんの邦生さん(伊勢崎市)。いつもは子供たちと囲碁を楽しんでいるとのことだが、この日は仕事仲間に誘われて船釣り初体験。やっと釣れたのはこの日の終盤。このサイズの魚をハリ掛かりさせるとは、流石としか言いようがない。
餌付けも難しくなく、虫餌ではないので釣り人を選ばないマダイテンヤ。この水深なら底も取りやすく、船酔いさえしなければ、実は決して敷居の高くない釣りなのかも知れない。釣れた子供たちの笑顔を見ていると、マダイ釣りを難しくしているのは釣り師自身なのではないか、と考えさせられてしまった。
“ゲストフィッシュ”色々
テンヤマダイは、ハリとオモリが一体化しているので、岩礁帯に潜む魚種、いわゆる“根魚”が良く釣れる。釣り味も良いが、夏は刺し身、冬は汁物にすると美味しいアイナメ、タイテンヤに食ってくるヤツは良型が多い、煮付け魚の横綱・メバル、白身で上品な味わいから「北国のタイ」とも呼ばれるクロソイなど、どれも味に定評のある魚ばかりだ。
この他、この日はショウサイフグやサバフグといったフグ類も多かった。ある一定のタナでしつこくアタリがあるのにハリ掛かりしない場合、彼らの仕業であることが多い。大きなマダイほど“モジモジッ”と小さなアタリを出すことがあるので非常に紛らわしいのだが、私もフグたちにからかわれて餌と時間を随分と費やしてしまった。
1本竿にアブレなし、1本バリに無駄はなし
この日の竿頭は大川晃さん(葛飾区)。早い時間からこの日のパターンを掴んで、コンスタントに“本命”を取り込んでいた。タイテンヤの魅力を尋ねると「『釣った』実感がある。道具が軽いし、身軽でコマセ釣りほど手が汚れないのも良いです」と穏やかながら端的な回答に、釣り師の洞察とこの釣りの奥深さを感じた。
「今日は厳しかったです」と苦笑いの若船長に、マダイが食い渋ったときのコツを聞いてみた。「諦めないことです」──ナルホド、納得の答えだ。
まだまだ大物の気配アリ!
この日、同じポイントで釣っていた船に6.5kgの大物が出たと聞いて「マジかぁ~」と凹んでいた若船長だが、10月10日の「日立沖真鯛釣り大会」では、見事6.15kgを釣らせて総合優勝。取材日の翌日には4.6kgを上げるなど、まだまだ大物の気配ムンムンの日立久慈港『直重丸』。産卵前の乗っ込み時期は神経質で気難しかったマダイも、秋が深まるにつれて、冬に備える荒食いのスイッチが入ったようだ。脂質を蓄え、その体色も鮮やかに揚がる晩秋のテンヤマダイ。12月1日に釣り物がヒラメへとシフトするまでの今がまさにラストスパートだ。収穫の秋、次に大物を手にするのは、あなたかも知れない。
今回利用した釣り船
〒319-1224 茨城県日立市南高野町3-4-17
(カーナビには「日立市久慈町1-1-2」と入力)
TEL: 090-2661-7857 釣果・施設情報 直重丸 ホームページ
出船データ
乗船料金:1万円(餌1パック・氷付き)
集合5:00 出船5:15
定休日:第3月曜日
貸道具あり/女性・子供割引きあり
この記事を書いたライター
6歳から釣りに親しみ、海・川・釣堀・湖のルアー・フライ・餌釣りに節操なくのめり込む釣り好き。2019年JGFA沖釣りサーキット・総合優勝/2010年JGFAオールジャパンゲームフィッシングコンテスト・マダイの部・優勝(10.2kg)…他