2017年02月01日公開
「日本で多い姓」では惜しくも2位の“鈴木さん”だが、出世魚の代表“スズキ”は、その呼び名(目、科)の多さではトップクラスの魚類。そのスズキを「シーバス」と呼ぶ人は、恐らくルアーアングラーだろう。東京湾のシーバスが驚きの釣果を打ち出していると聞き、ジグバッグを手に横浜・本牧の『長崎屋』に出掛けた。
出船はのんびり午前8時過ぎ
『横浜フィッシングピアーズ 本牧海釣り施設』や『三渓園』など、横浜の“癒やしスポット”として親しまれる神奈川県・本牧。その住宅街の中に『長崎屋』の受付所はある。釣り人はここで乗船名簿の記入と支払いを済ませ、車で5分弱の本牧港へ。
カモメたちが羽を休める岸壁から海を覗くと、5m下の海底の石が数えられるほどの輝くようなジン・クリア。日の出前の気温は-3℃。空は雲ひとつ無い冬晴れだ。身の引き締まる気持ちの良い朝だが、魚の反射食いを誘う金属製のジグというルアーを用いる“ジギング”には少々澄み渡り過ぎか。「水清ければ魚棲まず」と言ったのは孔子だが、果たして本日の釣りや如何に。
1投目からクライマックスだ!
受け付けを済ませた釣り人全員の乗船を確認して、「第十長崎丸」は護岸を離れた。凪いだ海を走ること20分足らず、最初のポイントは横浜ベイブリッジを見上げるエリア。魚群探知機で魚影を探す船長の合図で一斉にルアーが投げ込まれ、すぐに船中1匹目がヒットした。ファーストフィッシュ!しかも67cmというグッドサイズを釣ったのは山田聡さん(横浜市)。続いて2匹目を上げたのはお隣の榎本俊司さん(横浜市)。その後の3匹目はもう誰だか分からない程の入れ食いに次ぐ入れ食い。船から360度がポイントとなる饗宴のような一流し目となった。この時点で船中全員が“本命”を釣り上げる快挙。濁りと影を見据えた船長の読みは的中した。
シーバス・ジギング、マニア続出中!?
東京湾のスズキ釣りと言えば、ほんの10数年前まで“サイマキ”と呼ばれる小型クルマエビを餌に、鋳込みテンビン仕掛けで船から釣るか、堤防から“ヘチ釣り”と呼ばれる独特の釣法でカタクチイワシやサッパを餌に釣ったり、夜にボートや堤防からプラグやプラスチックワーム(ソフトベイト)などのルアーを投げて釣るのが主流だった。それが最近では、日中のジギングによる釣りに人気が取って代わった。これには様々な理由が考えられるが、スズキと金属製ルアーとの相性の良さは昨今の発見ではない。釣りバリを付けた鉛の棒をしゃくってスズキを釣る“カッタクリ”は、江戸時代からあるし、“サイマキ”のような餌付けや合わせの難しさもなく、しかも釣れるサイズも大きい。それでいて、釣れないタイミングには沈黙し、飽きてしまうほど釣れ過ぎないのも魅力だ。アクションを変え、ルアーを替えて魚に口を使わせる管理釣り場のマス釣りにも似た楽しみと奥深さがあるので、1回チャレンジすると、どっぷり嵌るアングラーがいるのもナルホド頷ける。
目にも楽しい東京湾めぐり
シーバス釣りでは地形変化に付く魚を釣るストラクチャーの釣り(オープンウォーター)と、岸壁や係留された船舶など、障害物に付く魚を釣るカバーの釣りがあり、シーバス・ジギングも例外ではない。この日に回ったポイントは、停泊中のタンカーや東京湾アクアラインの通気口である人口島「風の塔」など、陸上からでは遠目にしか見たことのない建造物周りで釣りを楽しんだ。カバーの性質や水深によって釣り方や釣れ方、釣れる魚も少しずつ異なって面白い。こうした変化の中に、それぞれの答えを見つけ出していくのも、この釣りの醍醐味の一つだろう。またこの日、ツートンカラーが可愛らしい2頭のカマイルカもお目見えした。魚を追う立場としては、れっきとしたライバルだが、男だらけのベイクルージングに花を添えてくれた。
トップ43匹、最大70cm!
この日の竿頭は椙尾和義さん(横浜市)。数m巻き上げては落とす海底付近のフォール(落とし込み)の釣りを中心とするこの日のパターンの中で、中層に浮いている魚の存在に早くから気付き、数を伸ばした。どうやってそのパターンを掴んだのかを尋ねると、濁り潮の中に餌と思われるカタクチイワシの群れを船上から目視していたことと、何回かに1回は海面まで巻き上げて再び海底へ落とす、イカ釣りの“巻き落とし”のようなテクニックを混ぜていたそうだ。また、この日の最大魚は新倉龍一さん(横須賀市)が釣った70cm。タンカー脇のポイントでルアーが着底した直後、ひったくるようにバイトしたとのことだが、その時、新倉さんが釣っていたのは停泊するタンカーとは反対側の舷。水上に見えてイメージする海中と魚の付き場は必ずしも一致しないので、どんな状況でも気が抜けない。「常連さんがみんな上手なので、毎回が修行です」と謙遜する新倉さんだったが、確かに技術やマナーに長けた釣り人が多い船宿という印象が強く、その釣りや立ち振る舞いを見ているだけでも得るものは多い。
コツは「難しく考えない方がイイ!」
「ムラはあるが悪くない」と今シーズンを語る長崎功船長。コツはと聞くと、「難しく考えない方がイイ」とのことで、ジギングだからといって派手にシャクらず、ルアーが着底したら船長の言うタナまでルアーを巻き上げ、再び海底へ沈めることが、まずは基本となるそうだ。フック(ハリ)はチラシバリが有効で、バーブ(カエシ)を潰した方が手返しがよくなり、安全性も高くなる。またリーダー(先糸)は30lb(ポンドテスト=およそ8号)以上が船長のお勧め。常連のみなさんは40lb(約12号)を使う人も多い。「スズキ釣りにそんな太いハリス?」と感じる名人もいらっしゃるだろうが、ルアー釣りのリーダーは餌釣りのハリスと考え方が全く異なり、細くしても何一つ良いことはない。また、同じベイジギングでも、一部のタチウオ釣りで用いる繊細な竿では、折れたりオマツリの原因になる恐れがある。サワラやイナダなどライトめな青物ジギングで使うような、タフで粘りのある竿の方が扱いやすいので念のため。
80cmクラスもコンスタントに釣れ始め、4月中旬まで楽しめる『長崎屋』のシーバス・ジギング。シンプルでテクニカルなこの釣りを、冬の楽しみのひとつに是非お勧めしたい。
今回利用した釣り船
出船データ
乗船料金:9,000円(氷付き)
集合:受付へ8:00まで
出船:8:30頃(乗客が揃い次第)
駐車場:500円
この記事を書いたライター
6歳から釣りに親しみ、海・川・釣堀・湖のルアー・フライ・餌釣りに節操なくのめり込む釣り好き。2019年JGFA沖釣りサーキット・総合優勝/2010年JGFAオールジャパンゲームフィッシングコンテスト・マダイの部・優勝(10.2kg)…他