2017年02月01日公開
「二兎を追うものは一兎をも得ず」。実はコレ、ローマ発祥の諺だそうだが、ローマ帝国より遥かに長い間、国として存続し続けている我が国・日本で、果たしてこの諺は通用するのか。1回の出船で大アジ・マダイ・アマダイを釣らせるという、静岡県沼津市は静浦から出船している『第八幸松丸』へ出掛けた。
沼津静浦は意外と近い
東名高速道路・沼津ICからおよそ30分。堤防釣りの大場所としても知られる静浦に「第八幸松丸」は停泊している。夜明け前の時間帯なら、首都圏からのんびり向かっても2時間もあれば到着するだろう。
集合時間になると、照明を灯した「第八幸松丸」が船着場に接岸する。船が着く前に到着しても、岸壁に船長の軽トラックが停めてあるので目印になる。乗船の際は勿論、船上での支度に充分な照明があるのは、夜のタチウオ釣りでも名高い『第八幸松丸』ならでは。6時30分、私を含め予約の4人を乗せて、滞りなく河岸払いとなった。
釣れるアジは全て40cm以上!
穏やかな海を走ること20分。空が明るくなる頃にポイントに到着。船長から「仕掛けは12mのを付けといて」とアナウンスされ「85mから振って75m」と海面からのタナが告示されて釣り開始となった。
『第八幸松丸』では、この釣りに2種類の仕掛けを推奨していて、魚群探知機の反応からアジが有望なら6mの仕掛け、マダイと思われる反応には12mの仕掛けでアプローチする。指示ダナや仕掛けのチョイスはその都度、かなりマメにアナウンスされるので、海底の地形や魚探反応が容易にイメージ出来るだろう。
「アジ(の反応)が出てきた。仕掛けを6mに替えて」とのアナウンスから間もなく、左舷ミヨシ(船首)の片山隆二さん(富士宮市)に船中初ヒット。ドラグを効かせた慎重なやりとりでゆら~っと浮かび上がったのは“尺アジ”どころか40cmクラスの大アジ!プラチナ色に輝く良型に驚いていると「このサイズではまだまだです」と片山さん。その言葉の意味は、やがて明らかになる。この魚を皮切りに、船中あちこちでアタリが出始めた。それはコマセが効き始め、オールスターキャストによるステージ開幕の合図だった。
開始1時間足らずで“二兎を得る”
船中2匹目を掛けたのは、飲食店を経営する佐野光男さん(富士宮市)。アタリを見た船長の言う通り、取り込まれたのは1kgクラスのマダイ。「今夜の宴会のタイが釣れた。丁度オーブンに入る大きさだから塩竃にする」と、魚を知る人の粋な計らいを聴かせてくれた。
程なくして竿を曲げたのは中野浩之さん(沼津市)。見るからにマダイという引きで上がってきたのは、1kg半の美しい魚体。その次の投入では50cmオーバーの大アジを掛け、竿入れから1時間も経たずに“二兎”を得ることに成功した。
この後もアベレージ50cm前後、1kgフィッシュに迫る特大のアジが釣れ続け、この日のトップは4匹、船中9匹のほとんどがこのサイズで占められた。写真ではその迫力が伝わらないのが無念だが、マアジの世界記録が1.19kg・54cm(IGFA:2017年1月現在)であると言えば、この驚異をご理解頂けるだろうか。
アマダイもまた「デカッ!」
沖上がりまで残り1時間。船長から「アマダイの仕掛けに替えといて~」とアナウンスがあり、船は水深110m前後のポイントへ小移動。この日、船中1匹目を釣り上げ、快調に大アジを釣っていた片山さん。「俺だけタイが釣れてない」と自嘲していたが、その釣り運と努力はこの流しに実を結んだ。
着底後、タナを1m切って竿掛けに置かれた竿先がズドンと引き込まれ、底層での激しい抵抗が収まった後も、ベリーに乗る重量感は船中の注目と期待を集めた。中層で再び暴れ出すアマダイ特有のファイトの末、タモに収まったのは1.68kg、51cmのグッドサイズ。「良い仕事した!」と自賛する片山さんは勿論、船中の全員に笑みがこぼれた。
二兎を追う者だけが、二兎を得る
昨年の年末からスタートした今期の大アジ・マダイ五目とアマダイのリレー。そのコツを松坂孝憲船長に訊いた。「マダイ釣りの感覚でタナ取りをしっかりすることと、派手にシャクらず静かに誘うこと」。実際に釣ってみた手応えでもコマセを“撒く”というより、パラパラと“こぼれている”くらいに絞ってもアタリは遠のかなかった。また気になる大アジのサイズについては「1.3kgも出た。イナダよりデカいよ」と驚きの証言。アマダイも今年に入ってから1.8~2kgクラスが度々上がっているようなので、世界記録への近道は『第八幸松丸』にあることを、道しるべとして記しておこう。
絶品のマダイ!
かくして、大アジと大アマダイが釣れた人、大アジとマダイが釣れた人、マダイとアマダイが釣れた人と、誰が竿頭ともつかない釣果で沖上がりとなった。取り分を奪い合うと幾ら釣っても足りないが、分け合うと余るような、感慨深い一日だった。お互いに手網を取り合ったり、支度を手伝ったりする釣り人同士のふれあいの温かさも、HPに載らない『第八幸松丸』のスペックとして書き添えたい。また特筆すべきは、この日釣れたマダイの美味いこと!賛否両論あるあの“マダイの香り”が控えめで、脂がのっているのに後味が澄んでいるのは、富士の水に磨かれているからなのか、豊かな栄養源に恵まれているのか定かではないが、これも是非、あなたの味覚でお試し頂きたい。
今回利用した釣り船
出船データ
乗船料金:1万円(コマセ・氷付き)
集合:船着場へ6:00 出船:6:30(変動あり/予約時に確認を)
この記事を書いたライター
6歳から釣りに親しみ、海・川・釣堀・湖のルアー・フライ・餌釣りに節操なくのめり込む釣り好き。2019年JGFA沖釣りサーキット・総合優勝/2010年JGFAオールジャパンゲームフィッシングコンテスト・マダイの部・優勝(10.2kg)…他