2017年02月15日公開
「釣り人と話す時は両手を縛っておけ」。ロシアに伝わる耳の痛い諺である。いつだったか、焼き鳥店のカウンターで釣り師から聞いた「海底が見えるくらいのトコで、こ~んなにでっかいヒラメが釣れんだよ」という、にわかには信じがたい話は果たして本当なのか?真偽の程を確かめに千葉県・御宿岩和田港『太平丸』を訪ねた。
東京湾アクアブリッジが風速14m!?
千葉県・外房地区は東京湾アクアラインの“値下げ”と圏央道との連絡で、首都圏からぐっと近くなった。ところが、取材日のカーナビには、強風のためアクアラインが時速40km規制になっているとの表示。予報でも北西の風が“赤マーク”となっていた。「これは港で船長に挨拶して出直すか」と思いつつ、東京湾トンネルを抜けアクアブリッジに出るとまさかの無風。電光掲示板には「風速14m」の文字が点滅しているが、さっきまでそんなに吹いていたのか。圏央道・市原鶴舞ICから御宿までは、のんびり向かっても1時間弱で到着する。港に着くと、これまた静穏なナギ模様。気象予報の精度はここ数年でかなりの的中率になったが、実態は現場に来てみないと分からないものだ。午前5時過ぎには釣り人たちの準備が整い、「太平丸」は定刻ちょっと前に出船した。
絶景に囲まれた岩船沖から
ウネリは残っているものの、これまた予報に反して穏やかな海を走ること30分弱。岩船沖の水深10m前後のポイントに到着。中乗りの大野益宏大船長によって餌の活きイワシが配られ、この日の釣りはスタートした。
暁暗に眼が慣れ、空が明るくなりはじめる頃、この場所の景観の素晴らしさに息を飲んだ。東の海上には朝陽の楊炎が立ち、西は地層の縞目も美しい岩船の断崖が連なる。カメラを手に見とれていると、左舷胴の間(中央)の釣り人の竿先が海面に引き込まれた。船中一番手は、相模湾の釣りが多いと言う遠山毅さん(浦安市)。岩船沖の起伏に富んだ地形を、頻繁にタナを取ることで丁寧にトレースする釣りが功を奏した。やがて甲板に朝陽が降り注ぐ頃、ほかの釣り人にも、ポツリポツリとアタリが出始めるが、型が今ひとつなのか中々ハリ掛かりしない。これはこれで駆け引きがあって楽しそうだが、“座蒲団サイズ”だの“大判”だのと呼ばれる魚を見てみたいと思うのは贅沢だろうか?
船宿仕掛けに垣間見える船長の“釣らせ方”
この日の釣り場は主に水深10m前後。砂地あり、岩場ありで、カケ上がったり、下ったりの多彩な流しを船長は試みるが、この時点ではアタリが散発的で型も伸び悩んでいた。船宿仕掛けを見せて貰うと、角セイゴバリを用いたシンプルな仕掛けだが、全体的にコンパクトだ。根周りを攻めながら、オモリを取られないよう高めに底を切って釣るのであろう、船長の意図がうかがわれた。
そこで、ヒラメは長竿で釣るのが好きなのだが、ここはハタなどの根魚を釣る時に使っている、やや強めで長さも2.25mと短めの竿を出してみた。中羽のイワシにハリを掛けて海底に落とすと、海底までは見えないが潮はやや澄んでいるようだ。海底に根があるので底立ちは常に変化するが、ウネリもややあるので、仕掛けが跳ねないように様子を見ながら、マメに底立ちを取っては底を切るという作業を繰り返した。結果、釣れたのは1kgクラスの“ソゲ”。続いて1.5kgクラスも上げたが、噂に聞く「こ~んなにでっかい」サイズにはほど遠い。「あの釣り師も典型的な法螺吹きだったのか」そんなことを思い始めていた。
この日の答えは岩和田沖にあった!
10時ちょっと前、船は岩和田沖へ。ここも水深は10m前後で概ねハードボトム。“ぷるるる…”と泳いでいたイワシが“ツン!ツツン!”と泳ぎ出した。フィッシュイーターが近くに居るのか。間もなく“ツン!”と逃げる動きが収まり、竿先にモタレが来た。水深が浅いのでこれらの“前アタリ”が実によく分かる。竿先をそっと持ち上げて“聴いて”みると、明らかにこれまでとは違う重量感が糸の先に感じられる。張った道糸のテンションが、逃げようとするイワシの抵抗に感じるのか、時折“ぐんッ!ぐんッ!”というアタリを出してくる。やがて“ぐぅ~ん”と竿を絞り込んだところで、リールを巻きながら竿を起こすと、魚は潮上へ向かって一気に泳ぎ始めた。竿の曲がりを見て船長がタモを持って来てくれたが、あまりに走るので「“青物”かも知れない」と言うと、海底を見ていた船長が「ヒラメだ」と言う。見ると、水深7m辺りで茶色い魚体がゆらりと踏ん張っている。魚影のサイズに舞い上がる気持ちを抑えながら慎重に浮かせると、ヒラメは1度タモを嫌って突っ込んだが、やがてタモに入って甲板へと取り込まれた。73cm、4.1kg。このくらいなら“大判”と呼んでも差し支えないだろうか。「浅場で大物」その噂は、本当だった。
大物はまだいる!
今年はイワシが少ないため、浅場の釣りがメインになると言う大野利広船長。コツは根掛かりをしないようにマメにタナを取ることと、横に走るのでサメと間違ってラフに扱わないことだそうだ。この日も船縁でハリス切れするシーンがあり、まだまだ大物の気配が漂う岩和田沖。根周りのアジを食べている寒ビラメは、身も締まって脂のまわりも実に程よいので、是非ポン酢と紅葉おろしでご賞味頂きたい。風光明媚でアタリの取りやすいこのエリアのヒラメ釣り。あなたの釣り自慢のページを増やすには、格好の機会かも知れない。
今回利用した釣り船
出船データ
乗船料金:12,000円(餌・氷付き)
集合時間:5時 出船時間:5時30分
貸し道具あり
この記事を書いたライター
6歳から釣りに親しみ、海・川・釣堀・湖のルアー・フライ・餌釣りに節操なくのめり込む釣り好き。2019年JGFA沖釣りサーキット・総合優勝/2010年JGFAオールジャパンゲームフィッシングコンテスト・マダイの部・優勝(10.2kg)…他