2017年03月01日公開
「提灯行列」。本来は勝負事に勝ったときなど、大勢で提灯を灯して練り歩く祝賀行事だが、沖釣りファンにとっての“提灯行列”と言えば、メヌケやアコウダイの多点掛けを意味する。誰もが「やってみたい」と思いながら、中々踏み出せない魅惑の深場釣り。シケの合間を狙って千葉県銚子外川港『福田丸』に出掛けた。
“春一番”後、初の出船!
暖かかったり、寒くなったり、嵐のような風が吹いたり、穏やかになったりと、気候変動の激しい今日この頃。早春らしいと言えば趣きもあるが、釣り人にとっては船が出ずにストレスの溜まる季節である。取材日は2月17日の“春一番”から続いた南西の風が止んだ22日。『福田丸』の釣果情報に「2~4.2kg/2~10匹/オデコなし」の情報が出てからの1週間が、どんなに待ち遠しかったことか。恐らく同じ気持ちの釣り人たちが、集合の1時間前には駐車場に集結して船長が来るのを待っていた。
女将さんの軽ワゴンが到着して受付が始まる。船代を支払って氷を受け取り、クジ引きで釣り座を決める。深海の限られたポイントに仕掛けを流すため、釣り座は片舷のみ。釣り人たちはロッドキーパーを取り付けて道具を固定すると、暖房の効いたキャビンに入って仮眠を取り始める。こうして「第二十一福田丸」は、滞りなく銚子外川港を後にした。
飯暁の空、ポイントに到着
「第二十一福田丸」には、広いキャビンが2つあり、前方の船室はゆったりと横になれる。出船からおよそ2時間後、エンジン音がスローダウンして釣り人たちは起き出したが、暫くすると再び走り出した。後で聴くと、お目当てだったポイントに魚の反応が見当たらなかったそうだ。そこから30分程走って「準備を始めて下さい」と船長からアナウンス。船室を出ると、マイナス3℃の空気と暁の水平線の美しさに目が覚めた。釣り座に着いた釣り人たちは、船縁に埋め込まれたマグネット板に餌を付けたハリを並べ、スタートの合図を待った。
丁度日の出頃、船長の合図で投入が始まる。トモ(船尾)から始まり、上乗りさんが糸の出を見て、釣り人の背後から「どうぞ~」と投入の合図を出してくれる。ミヨシ(船首)まで投入が完了し、船長が船を進めて仕掛けをポイントに入れようとするのだが、道糸が思うように垂直に立たず、どこまでも道糸がリールから引き出されて底が取れない。この現象、潮が速い事もあったが、仕掛けを回収してみると、10本バリにことごとくサバが掛かってオモリの沈降を遮っていた。「サバ行列だ!」と釣り人たちは笑ってオマツリを解いていたが、“外道”と言うには申し訳ない見事な寒のマサバ。一流し目では残念ながら“本命”メヌケを拝むことが出来なかった。
船長の“釣らせ方”と、釣り人の“工夫”
一流し目の反応を見て、船長はハリ数を5本にすることを提案し、潮の緩いポイントへと移動した。この日の釣り場は、概ね水深350~400m。一流し目は500号のオモリが、真横に流れて行くような強い潮の中での釣りだった。投入してから、数分後に道糸がフケて(弛んで)着底を確認した後、潮流によって余分に出た道糸を巻き取り、垂直に道糸を立たせる。この一連の作業が全員完了すると、船長は船を進めて、魚の居るポイントに仕掛けが流れるようポジションを取る。東京タワーのてっぺんから地上までより長く、地上の風より強く複雑な潮流の中で行われるこの作業は、釣り人にとって大きく重く感じられる500号(1.8kg)のオモリすら、実は軽過ぎる位なのだ。船長に見せて貰った潮流計には崩れた矢印のような三枚潮。この中で、魚と付け餌が出会うための努力と幸運があって初めて、釣果として実を結ぶのだ。
また、この釣りでは釣り人各々の持ち込む餌の数々も面白い。幅1~1.5cm、長さ10~13cm程のスルメイカの短冊切り(通称:イカタン)を基本として、それを赤く染めたものや緑色に染めた物、同サイズの“サバタン”、カツオのハラモ、サケの皮、鶏の皮など実に様々。乗船料に餌代は含まれていないので、各自ご用意をお忘れ無く。
時合いは突然に!
サバの猛攻が落ち着いた9時半過ぎ。「この流しは、潮がいくらか緩やかだな」と感じたその時、トモの塩野信行さん(杉並区)に待望のアタリ。注目が集まる中、海面に浮かんだ赤い魚影に船中は活気づき、船長にも安堵の色が。間もなくお隣の長谷川郁夫さん(町田市)にもアタリが出て、しばらく追い食いを待った後に巻き上げ開始。深場竿を大きく曲げる重量感がフッと抜け、5時の方向にポカッ、ポカッと浮かぶ魚影は、1つ、2つ、3つ…4つ!この光景を船中の誰もが待っていた。5本バリに4匹の快挙を前に、「夢みてぇだ」と船長の笑い声が響く。同じ流しでミヨシ2番目の小座間宏さん(横浜市)にも一荷(2匹)で上がり、「今日は難しかった……いつも難しいですけど」と温かい冗談と笑みがこぼれた。つくづくこの釣りは、最後の最後まで分からない。
高価な道具や、時間の掛かる仕掛け作り、餌の仕込みで敷居の高い深場釣り。その最大の収穫は「高級魚が釣れた」という喜び以上に、かっ飛ぶ潮にも、サバに継ぐサバの猛チャージにも、オマツリにもめげず、諦めず、マメに底立ちを取っては繊細にタナをキープする、“精進の結晶”なのかも知れない。
『福田丸』のメヌケ釣り、本番はこれから!
ピンチから一転、2~3.8kgを0~5匹という釣果で幕を閉じたこの日の釣り。福田稔船長にこの釣りのコツを尋ねると「まずはタナ取りですね。小まめに底立ちを取って、ベストのタナを繊細に取り続けることが大切」とのこと。「シケや寒暖の間隔が狭くて今は魚が落ち着かない。ナギが続けば期待できると思います」と楽しみな展望を聴かせてくれた。上乗りの斉藤さんは投入の準備が間に合わなそうだと、そっと手伝ってくれたり、元釣りガールの女将さんや常連の皆さんも非常に親切で、私のような深場釣りビギナーにも大変心強い銚子外川港『福田丸』。「メヌケはこれからが本番になります、是非いらいして下さい」。そう語る船長の言葉には、この海を知る人の確信と信念が感じられた。
この記事を書いたライター
6歳から釣りに親しみ、海・川・釣堀・湖のルアー・フライ・餌釣りに節操なくのめり込む釣り好き。2019年JGFA沖釣りサーキット・総合優勝/2010年JGFAオールジャパンゲームフィッシングコンテスト・マダイの部・優勝(10.2kg)…他