2017年04月01日公開
「顔のヘンな魚ほどうまい」と言ったのは作家・開高健氏だが、オニカサゴはその良い例だ。その食味に加え、餌や誘い方の選択、ハリに掛かってからは200mに迫る海底から海面まで果敢にファイトする釣り味も素晴らしい。あの味が恋しくて、いつも大きなオニカサゴと出会わせてくれる千葉・大原港『力漁丸』に出掛けた。
人気のオニカサゴ、平日に2隻出し!
『力漁丸』の集合時間は午前4時。カーナビの目印にもなる地元漁協直営の食事処『いさばや』の前に到着したのは3時頃だったが、『力漁丸』のコンテナ周辺には既に数台の車が停車していた。集合時間が近づくにつれ来るわ、来るわ。木曜日の平日だと言うのにオニカサゴ乗り合いは2隻出しの大盛況。三寒四温の早春にあって、春の釣り物に釣り人の意識が向かうこの時期、なぜこれほどまでに、このオニカサゴ船は人気なのか。予約の釣り人全員の乗船を確認し、「力漁丸1号」と「力漁丸2号」の2隻は同時に離岸した。
まずは餌となるサバ釣りから
この釣りの出船が早いのは、オニカサゴを釣る前に付け餌となるサバ釣りがあるからだ。この時期にしては珍しく、穏やかな海を走ること1時間ちょっと。水深130mのポイントでフラッシャーサビキを投入する。乗りにくい流しもあったが、3流し目には船長が良い群れを見つけ、足元の桶はアッという間にゴマサバで満たされた。
オニカサゴのポイントへと向かう道中、このサバたちを5枚におろしてサバタン(短冊切り)を造る。カマから尾ビレまで一杯の長さを活かした大きな切り身を餌にするのが『力漁丸』の特徴。1匹のサバから背中2枚、腹2枚の4枚しか取れないが、9匹もあれば一日分になる。万が一、朝イチにサバが獲れなくても、船には餌の準備があるので心配無用だ。
“鬼退治”一番手は開始10分後に!
6時30分、大原南沖の水深170mの釣り場からスタートした。餌には先ほど釣ったサバの切り身を付ける人、アナゴを付ける人、イイダコを付ける人、ヤリイカを付ける人、鶏皮を付ける人……と、実に様々。
最初にオニカサゴを手にしたのは左舷ミヨシ(船首)の中嶋誠さん(柏市)。開始から10分と経たないうちの快挙。「(餌は)サバしか使わない」とシンプルで迷いのない釣りが印象的だった。
ここからあちらこちらで竿は曲がるものの、上がってくるのはサメばかりとなり、誘いを小さくしたり、フロートチューブや夜光玉など派手な光り物を外すなどの工夫で対抗するが“サメ退治”に終わりはなく、釣り人たちは苦戦を強いられた。それでもポツリ、ポツリと上がる“本命”は良型揃いで「サメさえ居なければ……」という膠着状態が暫く続いた。
“本命”以外の“おいしい獲物”たち
オニカサゴ以外に上がってくるのは、迷惑なサメばかりではない。オデコに2本のアンテナを持つヒオドシや、大きな目がキュートだが腹の中は真っ黒なユメカサゴ(ノドグロ)は、煮付けは勿論、大きな個体は刺し身にしてもイケる。また、この日には上がらなかったが、丸顔につぶらな瞳とはギャップのあるパワフルなファイトを見せるメダイは、西京焼きにすればまさに“最強”。特にこの時期のものは煮物にするとクエと間違えるほど美味なので「ヌルヌルして気持ち悪い」と言わずに是非、丁寧に持ち帰ってご賞味頂きたい。
オニさんこちら!チャンスタイム到来!
サメの入れ食いと流れない潮に悩まされ、「これが最後の流しだ」と残る力を振り絞った11時過ぎ。オニカサゴが口を使う時合いだったのか、はたまた鬼ヶ島のハニースポットに差し掛かったのか、ミヨシから順にアタリが出て、一人、またひとりと竿が曲がり“本命”が上がり始めた。結果、船中10人で22尾、トップ4尾が3人という成績でこの日の釣りは幕を閉じた。残念ながら1人(しかも腕に覚えのある常連さん)が“本命”を取り逃したが、心ある釣り師が釣果を分けていた。『力漁丸』ではよく見掛ける光景だが、まさに「渡る世間に鬼はない」のだと実感する。
竿頭に訊く“釣りの引き出し”
竿頭は船中1匹目を釣った中嶋さんと、2匹目を獲った松林末太郎さん(巻頭・川崎市)、そしてラストを一荷(2匹)で飾った彦田正雄さん(江戸川区)の3人。中嶋さんにサメの対策を尋ねると「サバの背中側の身を餌にする」とのこと。腹側の白い身だと目立ち過ぎるためだそうだ。また、松林さんは一定のリズムで頻繁に底立ちを取っていて、それが誘いとしても功を奏した模様。一方、大ドモ(船尾)で釣っていた彦田さんは「ミヨシから釣れているような時、トモ(船尾)に座っていたらオマツリしない範囲内でオモリを重くして、ミヨシの釣り師と仕掛けの流れる筋を変える」という奥の手を明かしてくれた。どれもが経験に基づいた、貴重な釣りの“引き出し”だ。
コツは「まめなタナ取り&仕掛けの入れ替え」
『力漁丸』の特徴でもある大きな餌について中井聡船長に訊いた。「餌は肉を削いで、大きく、細長く付けることですね。小さく付けるとどうしてもユメカサゴなどの餌盗りが食ってしまう」とのこと。この釣りのコツについては「まめにタナを取ること」と「仕掛けを入れ替えること」がオマツリの防止となり、釣果へと繋がるそうだ。この日も潮に対して船をどう流すか、船長から逐一アナウンスがあった。これを参考に、船の下へ糸が入る流しの時には、まめに仕掛けを巻き上げて再度入れ直すのが効果的な探りとなるので覚えておこう。
大原のオニカサゴシーズンは周年!
冬の釣り物と思われがちなオニカサゴだが、『力漁丸』では一年中、オニカサゴ釣りが楽しめる。船長の観察では1月と8月に抱卵している様子だという大原沖のオニカサゴ。つまり一年中“旬の味”であることも人気の秘密かも知れない。1kg(40cm弱)に成長するまでに10年を要すると言われるオニカサゴ。この貴重な環境と資源を護るためにも、小さな個体が釣れてしまったらトゲを切ったりせず、海へ帰してやることを心掛けたい。豊かな海に、ユニークな船宿。あとは釣り人のマナーが伴えば「鬼に金棒」と言うものだ。
今回利用した釣り船
出船データ
料金:1万2,500円(付け餌、氷付き)
集合:4時00分 出船:4時30分頃 沖上り:11時30分頃
この記事を書いたライター
6歳から釣りに親しみ、海・川・釣堀・湖のルアー・フライ・餌釣りに節操なくのめり込む釣り好き。2019年JGFA沖釣りサーキット・総合優勝/2010年JGFAオールジャパンゲームフィッシングコンテスト・マダイの部・優勝(10.2kg)…他