2017年05月01日公開
この時期、テンションの上がる言葉と言えば「解禁」、「春爆」そして「乗っ込み」。今年のサクラは開花こそ早かったものの満開は近年より遅く感じられた。となると、マダイの産卵はどこまで進んでいるのか。春の一大イベント「乗っ込みマダイ」を求めて、大型が上がっている千葉・富浦港『共栄丸』を訪ねた。
4月に入って竿頭13匹、最大6.1kgのハイペース!
「第三共栄丸」が停泊する富浦港は、富津館山道・富浦ICから僅か数分。走行距離の割に所要時間が短く、房総半島の名だたる漁港より体感的に近く感じられる。港に出る手前に宿泊も出来る『共栄荘』と待合室があり、引き戸の脇に立てかけられた舟形に名前を記入して釣り座を確保する。待合室には乗船名簿があるのでこれも記入して港へ向かう。空が白み始めた4時30分。軽トラックで船長と女将が港に来て、乗船準備や氷の配布が始まる。釣り人が船に乗り込み、準備が整う頃には港もすっかり明るくなり、定刻の5時に「第三共栄丸」は出船した。
釣り場は港から目と鼻の先
湖のように穏やかな海を走ること僅か10分。最初の釣り場「横瀬」に到着。暫く魚探で反応を探し、この日の釣りはスタートした。それから数分後、船中最初のアタリは左舷トモ(船尾)の野口秀喜さん(板橋区)。上がったのは尺(約30cm)を優に超える良型アジ。それから暫くあちらこちらでアジが上がった。
そしてコマセの効き始めた6時頃。右舷ミヨシ(船首)の富永起好さん(狛江市)に待望の“本命”と思しきアタリ。マダイ独特の三段引きを見せながら海面を割ったのは、浅黒く腹のぽってりとした典型的な“乗っ込みマダイ”。それと同時に隣の伊藤廣見さん(千葉市)の竿先が海面に絞り込まれた。これまで銚子でヒラメ釣りを嗜んでいたという伊藤さん。今年からマダイ釣りを始めたとのことだが、慎重なやりとりの末に上がったのは60cm、2.8kgの良型。幸先の良いスタートに笑みがこぼれた。
『共栄丸』のマダイ攻略
乗っ込み期は、大型がまとまって釣れる好機とは言え、産卵期で警戒心が強くなっているマダイ。『共栄丸』では海面からの指示ダナで釣るスタイル。まず、魚探の反応を見て船長から指定ダナがアナウンスされる。仕掛けの投入後、道糸のマーカーで水深を取りながら指示ダナの5m下でコマセを振り始め、指示ダナで船中一同のビシカゴの位置を揃える釣り方だ。
付け餌はコマセのオキアミから「これぞ」という個体を拾ってハリに付ける人と、付け餌用の加工オキアミを持参する人とそれぞれ。手持ちと置き竿、電動と手巻きリール、テーパー仕掛けとストレート仕掛け、指示ダナより上からの落とし込みや、竿先を上げて誘いを入れる人、タナを決めたら動かさない人…と、それぞれが半々くらいで結果も様々。船中で揃えるところと個々の釣り人の個性を出すところ、これはわきまえて臨みたい。
美味しい“ゲスト”たち
この釣りで上がるのはマダイだけではない。富浦の豊かな海で登場する“ゲスト”フィッシュは多彩で、おしなべて型が良く、しかも美味しい。この日に上がったのは、40cmに迫る脂の乗ったアジ、“寒”と産卵期の過渡期にあるイサキ、釣り味も食味も素晴らしいカイワリ、店に並ぶ物とは格の違うマサバ、かつてはファンが多く専門の遊漁船が数多あったキントキダイなど。“餌盗り犯”にメバルやフグの類いもいるようだ。釣果情報には「0~5匹」とマダイの数しか掲載されないが、その裏にはこんな豪華な釣果がクーラーと食卓を賑わせていることを、声を大にしてお伝えしたい。
竿頭の釣り模様
この日の最大魚は野口さんが釣った3.2kg、次点は伊藤さん、富永さんの2.8kgと、3kg前後の良型と1~2kgのまずまずサイズが船中で20匹上がった。
そして、この日の竿頭は2.3kgを頭に5匹を釣り上げた入澤恵太さん(熊谷市)。ソリッドグラスの竿に手巻きリールと味のある道具立ても目を引いたが、更に特徴的なのはその釣り方。コマセを撒いたら指示ダナに置き竿で待つ極めてセオリーに忠実な釣り方を守りながら、“餌盗り”と思しきアタリやコマセ切れのタイミングを見逃さず、マメに仕掛けの上げ下げをしているのが印象的だった。コマセの詰め替えや付け餌のチェックも手返し良く効率的で、結果、タナにより長く餌(釣りバリ)をキープする努力が釣果に結びついたのだろう。埼玉から片道3時間をかけて富浦に通う入澤さんだが、『共栄丸』の常連さんや船長の醸すゆったりとした雰囲気と釣れる魚のクオリティを見ると、その選択も頷ける。
船長に訊いてみた
このシーズンのマダイ釣り。そのコツと注意点を笹子宏宣船長に訊いた。
1.指示ダナ下5mより下でコマセを撒かない
海底からコマセに誘われて浮上する大型の個体を釣る釣り方なので、低いタナでコマセを撒くと魚が浮上しないのみならず、ビシを嫌って群れが散ってしまう。
2.コマセを撒きすぎない
“青物”や秋の荒食いと違って、春のマダイはコマセに突っ込んでくるワケでは無いので、コマセはポロポロこぼれる程度に絞らなければ付け餌を食わない。
3.派手な誘いはしない
魚を驚かせないよう、誘いは勿論、投入もコマセの振り方も、とにかく何でも「そ~っと」やるように心掛ける。
今回の取材中、様々なシチュエーションで船長に魚探を見せて貰ったのだが、アタリが遠のいたり魚の雰囲気がなくなった時に魚探を見ると、誰かのビシが海底に落ちて、魚の反応が消えている場面に遭遇した。こんなにも明確な反応に遭遇すると、投入後のタナ取りだけは本当に気を付けようと実感する。私が「象背根」で釣ったマダイは全てオスだったが、「水温はまだ低いし、今年の乗っ込みは遅れているのか、それともダラダラしているのか…」と今期の異例な乗っ込み具合を語る船長。日によって釣果にバラつきはあるが、ここは良い日に釣行日が当たるよう、足繁く通うのが最善のようだ。
今回利用した釣り船
出船データ
料金:1万円(コマセ、氷付き)※女性9,000円・子供5,000円
集合:4時30分
出船:5時
沖上がり:12時頃
この記事を書いたライター
6歳から釣りに親しみ、海・川・釣堀・湖のルアー・フライ・餌釣りに節操なくのめり込む釣り好き。2019年JGFA沖釣りサーキット・総合優勝/2010年JGFAオールジャパンゲームフィッシングコンテスト・マダイの部・優勝(10.2kg)…他