2017年12月15日公開
きっぱりと冬が来た。魚が美味しくなる上に釣り人が少なく、ゆったりと釣りに集中できる冬こそ、シリアスアングラーには楽しみな季節ではないだろうか。知る人ぞ知る美味しい魚・カイワリを中心にした“五目釣り”が今年も開幕したと聞き、千葉県・南房総、洲崎港『佐衛美丸』に出掛けた。
アクセス良好な洲崎港
都心からおよそ2時間。「佐衛美丸」の停泊する洲崎港は、富津館山道路の終点、富浦ICから25分程。早朝は道が空いているので、房総半島の先端に位置する割には体感として近く感じられる。海辺のワインディングロード「房総フラワーライン」で洲崎灯台を過ぎた辺りに洲崎港へ降りる小道があるのだが、少し手前に『佐衛美丸』の青い看板があるので、初めてでも迷わない筈だ。この日の朝の気温は6℃。厳冬期よりは過ごしやすいが、風が強く冬の装備で丁度良かった。乗船すると既に釣り座はセットが完了していて、すこぶる快適。夜明け前の午前6時、右舷に4人という余裕の釣り座で「第12佐衛美丸」は出船した。
竿入れからイサキが好釣!
ウネリのためゆっくり走ること15分、最初のポイントに到着。この日は潮流が速く、朝の3時間をコマセ五目、潮が緩む9時以降をカイワリ釣りに割り当てると、船長からアナウンスされた。スタートから僅か3分、ミヨシ(船首)の上野富次雄さん(館山市)にアタリ。小気味よい引きで取り込まれたのは塩焼きにピッタリなサイズのイサキ。ひと流しにつき1投のみのスピーディな釣りだが、ポイントによって60m前後で上下する船長の指示ダナに仕掛けが入るとアタリが出るという気持ちの良い釣れっぷりで、間もなく船中全員が冬の美味“寒イサキ”を手にした。
ウネリ、強風、速い潮で見えてくる機能性
好調なスタートを切ったこの日、天候は決して穏やかではなく、釣り人にとって厳しい条件の方が揃っていた。この状況だからこそ気付いたのだが、船縁に備え付けのマグネットや、飛ばされにくく仕掛けと絡みにくいコマセのシャモジ、手返しに貢献する軟質プラスチックの疑似餌“バイオベイト”の配布など、痒いところに手が届く細やかな心配りに感心した。更に潮が速く迅速な投入が求められる場面で「もうすぐ(投入)なので準備しておいてください」というアナウンスがその都度あり助かったのだが、操舵室を見て驚いた。魚群探知機は勿論のこと、ソナーにレーダー、2台のGPSといったデジタル機器のフルコースと、船の向きを変えるスラスターが前後2カ所にあるなど、コンパクトな船体に凝縮されたてんこ盛りの機能が釣り人たちの釣果を支えていた。整頓され快適なキャビンで電子レンジや沸騰ポットが自由に使えるのも、寒くなるこれからの時期にはしみじみありがたい。
そして、いよいよカイワリのポイントへ!
コマセ釣りを満喫したところで、船長はカイワリの釣り場へと舳先を向けた。最初の釣り場は水深88m。仕掛けと餌はコマセ釣りと同様で、テンビンのプラビシカゴを80号のオモリに付け替える。この時は潮が効いていたので、着底したら0.5~1m底を切り、時折、竿先をきき上げては底ダチを取り直す“底中心の釣り”が船長からのアドバイス。ここでも当初は“ゲスト”フィッシュのレンコダイが多かったが、やがて潮流が緩やかになるにつれ、鋭角的な強い引き込みと共に、良型のカイワリが上がり始めた。次第に潮は弛み、流れが止まったところで、底から3mくらいまで静かに誘い上げては底ダチを取る釣りを船長から薦められた。「カイワリは潮が動かない方が食う」と言う船長の言葉通り、ここから2匹掛け、3匹掛けとカイワリの活性が上がり始め、その模様は沖上がりまで続いた。
カイワリ五目の釣魚図鑑
“カイワリ五目”と銘打たれる通り、釣れる魚は筆頭のカイワリだけではない。この日のコマセ釣りのメインターゲット、この時期は脂が乗って旬より旨いとも言われるイサキ。味も釣果もこれからベストシーズンを迎えるオキメバル(トゴットメバル)。コマセ釣りでもカイワリの釣り場でもおそろしいくらい釣れたキダイ(レンコダイ)。香りが気になるという人は、活きているうちに皮を剥いで身欠きにすると匂わない肝パンのウマヅラハギ。仕掛けを回収している時に上ダナで猛烈に食ってくるイナダやサバなども釣れていた。他にもアマダイやオニカサゴ、カンパチやマダイといった味に定評のある魚たちが連日上がっているので、ここに写真を載せられなかった魚種は是非、みなさんの釣行で埋めて頂きたい。
船長に訊く、カイワリ釣りのコツ
「カイワリの居るところは分かっているので、潮が止まってくれさえすれば釣れる」と語る早川忠信船長に、この釣りのコツを訊いた。「コマセを撒くように竿を強く振ると食わないんですよね。仕掛けを底に這わして、そっと誘うような感じですね。潮が動かないときは5mくらい上げてきても食うことがあるんですが、基本的には底を釣ります」とのこと。駿河湾などで定番のウイリー仕掛けを派手にシャクるカイワリ釣りとは釣法が180度異なることを明記しておこう。
数字では伝えきれない満足感
かくして、この日のカイワリの釣果は4~9匹。釣果情報でこの数字を見ると決して派手さはないが、釣り人たちのクーラーはバラエティ豊かで賑やかだ。この日の竿頭は田中直樹さん(北足立郡)。「前に来たとき(カイワリ)は2匹しか釣れなかったんですよ」と見せてくれた24Lクーラーは、氷を入れたらほぼ満タン。「家に帰ってからも楽しみですね」と恵比寿顔。ご自宅まで3時間の家路も、あれこれ献立を考えていれば時間が足りないくらいではなかろうか。
海から眺める景観ものどかで美しく、穏やかな船長やユーモアのある女将さん、親切な常連さんたちに心和む『佐衛美丸』。カイワリのご機嫌は全く以て潮次第だが、万が一奮わなくてもきっとまた来たくなる、癒やしのフィールドだ。
今回利用した釣り船
出船データ
集合:5:30 出船:6:00
※釣り座は予約順(船長の指示があるまで乗船不可)
この記事を書いたライター
6歳から釣りに親しみ、海・川・釣堀・湖のルアー・フライ・餌釣りに節操なくのめり込む釣り好き。2019年JGFA沖釣りサーキット・総合優勝/2010年JGFAオールジャパンゲームフィッシングコンテスト・マダイの部・優勝(10.2kg)…他