2018年08月01日公開
孵化してから一生泳ぎ続ける回遊魚、本ガツオ。赤道付近の海域から黒潮に乗って北上してきた本ガツオの群れが、ようやく相模湾に入って来た。連日爆釣、船中200匹オーバーとの釣果報告に誘われて、葉山あぶずり港『長三朗丸』に出掛けた。
この釣りの乗船場所は駐車場側
『長三朗丸』の受け付けは午前5時オープン。それより前に到着した釣り人は店先の座席表に記名して駐車場のゲートが開くのを並んで待つ。店が開いたら乗船料を支払い、釣り座を確保する。いつもなら直ぐ裏手の船着場が乗船場所だが、活き餌の買い付けで船が出ているので、今回の乗合船は港の入り口、駐車場のある埠頭が乗り場となる。餌のシコイワシ(カタクチイワシ)を満載した船が帰って来たのは5時47分。乗船は、着岸している反対側の舷の釣り人から呼び出される。滞りなく準備は整い、5時55分「第21長三朗丸」は定刻より少し早めに出船した。
4時間に渡る捜索の果て…!?
この日の相模湾は絶好のコンデション。風向きによっては波飛沫を浴びたが、真夏日の甲板では寧ろ心地良い。船長とスタッフが魚影を探す傍ら、釣り人たちは海鳥の群れやイルカの跳躍を眺めながら太陽がいっぱいの相模湾クルーズを楽しんだ。そんなこんなで、出船から4時間が過ぎようとしていた。「釣れない時は、魚が考える時間をくれたと思えば良い」と言ったのはヘミングウェイだが、やや考え過ぎて悟りが開けそうになったその時、「パヤオ」と呼ばれる“浮漁礁”、その名も「浮き相模」周辺で船は速力を緩めた。魚の活性を上げるために活きイワシが撒かれると、程なくしてフィッシュイーターたちの疾走や跳ねを確認。釣り座のホースから海面への散水が始まり、釣り開始の合図が出た。間もなくあちらこちらの釣り座で竿が曲がったが、上がるのはペンペン(小型シイラ)ばかり。一際猛烈なファイトの末に、1mオーバーのシイラを上げたのは坂本和洋さん(横浜市)。パヤオに付くシイラは釣り人の標的になりやすく警戒心が高いため、ルアーマンにとっては難攻不落のイメージすらあるが、活き餌の前では正にイチコロ。良い肩慣らしとなったが“本命”は居ないと見切った船長は、再び獲物を求めて走り出した。
遂に訪れた“饗宴”のはじまり!
再び走ること1時間。エンジンがスローダウンしたのを合図に、釣り人たちは餌を付け、釣り座に着いた。「はい、いいよぉ~!」と船長の掛け声があって間もなく、軽快なドラグ音を奏でたのは巻頭写真の斎藤正弘さん(大田区)。危なげ無いファイトでゴボウ抜きにしたのは3kg級の本ガツオ。この後は誰が2番手か分からない一斉のヒットで、船中のボルテージは一気に沸点へと達した。散水が描く虹の光彩も、海中に散りばめられるイワシの鱗の燦めきも、この釣りをしなければ目にする事も無い非日常の一コマ。それに見とれる暇も無く、釣り人たちは活き餌をハリに付けては海へ打ち返した。尾ビレで甲板を叩くカツオのドラムロールと、散水の水音しか聞こえない船上。糸の動きへの集中と狼藉たるファイトは繰り返され、陶酔か覚醒かの区別も付かない饗宴のような釣況は、イケスに満載したシコイワシが尽き果てるまで続いた。
オマツリは不可避、冷静に適切な対処を
走り回る本ガツオやキハダが船中一斉にヒットするこの釣りに、隣席や反対舷の釣り人と糸が交差する“オマツリ”は避けて通れない。釣り人同士が声を掛け合い、釣り座を入れ替わって、オマツリを解きながらファイトするのもこの乗合船の醍醐味と言えるかも知れない。その点、延べ竿で居合い斬りのように決着を付ける“一本釣り”は勝負が早く、大型の個体も獲り逃しが少ない。大船長も操舵席からミヨシ(船首)へ降りてその腕前を披露したが、疑似餌の踊らせ方、魚へのダメージを与えないスムーズな取り込みに脱帽。この釣りは実に奥が深く面白い。
本ガツオの身に酸味があるのは、全力疾走する筋肉から排出される乳酸が原因。あの酸っぱさが苦手なら、ファイト時間を短く、また甲板で暴れさせる事無く、真っ先に締めることで軽減することが出来る。食べることが最大の焦点なら、予めクーラーに海水と氷で水氷を作っておき、魚を釣り上げて直ぐに後頭部へ一撃を加えるかエラからナイフを入れて頸部の中骨を断ち、エラを引き抜いたらバケツの中で軽く洗ってクーラーへ漬け込むことが賢明だ。
この日の竿頭は、一本釣り初挑戦の小林信之さん(平塚市)。75lのクーラーに入り切らず、樽2本へ氷詰めにして港へ持ち帰った。船中130匹超え、しかも本ガツオは2~5.9kg、キハダは3kgから最大10.2kgと良型揃い。100lの特大クーラーが丁度良い、文句ナシの大釣りとなった。
今年は魚も群れもビッグサイズ!
今年の本ガツオの模様について、栗飯原由巳船長に訊いた。「群れは少ない分、魚はでっかい。群れの規模は小さくないから見つかれば釣れるけど、これから(別群が)入ってくると思うし、新しい群れほど食いがいいんだ」と今後も益々楽しみだ。この釣りのコツを尋ねると「慣れて貰うしか無いね。イワシに慣れれば誰でも釣れる。入れて食わなきゃ、すぐ取っ替えた方がいい」と船長。ハリ付け後に投入された活き餌が、船縁のシャワーより向こうへ潜行しながら泳いで行く状態が“釣れる条件”で、海面でヘロヘロしていたり、力尽きて船下へ流されるようなイワシは活きていても付け替えることが肝要だそうだ。ヒラメ釣りと異なり、餌のイワシはどんどん交換することが推奨されているので、この点は特に留意したい。また釣り方や餌の付け方は添乗のスタッフに尋ねると親切丁寧教えてくれるので、遠慮せずに声を掛けるとよい。
降り注ぐ陽射しと潮飛沫をいっぱいに浴びて、太平洋育ちの弾丸ファイトと新鮮な味覚を満喫できる活き餌の本ガツオ&キハダ乗合船。8月1日からのコマセ釣りスタート後も楽しめるとのこと。今期絶好のスタートを切ったこの機会に、ハリと糸だけのシンプルなフカセ釣りで、青物のスピードとパワーを是非、ダイレクトにお楽しみ頂きたい。
今回利用した釣り船
出船データ
乗船料金:1万5,000円(餌付き/氷別:バケツ1杯300円)
※女性1,000円割引き・高校生以下は2,000円割引き
集合:出船30分~1時間前 出船:午前6時
この記事を書いたライター
6歳から釣りに親しみ、海・川・釣堀・湖のルアー・フライ・餌釣りに節操なくのめり込む釣り好き。2019年JGFA沖釣りサーキット・総合優勝/2010年JGFAオールジャパンゲームフィッシングコンテスト・マダイの部・優勝(10.2kg)…他