2018年11月01日公開
細い道糸を使う事によって、オモリや釣り具の軽量化を実現したLT(ライトタックル)。その登場によって、オデコ(釣果0)覚悟の上級者向け対象魚から、身近なゲームフィッシュとなった感のある高級魚アマダイ。「今期は開幕から良型が上がっている」との噂を聞き付け、神奈川県・平塚港『庄治郎丸』に出掛けた。
なぜ相模湾では毎年アマダイが“好釣”なのか?
都心からのアクセスも良く、初心者からベテラン向けまで様々な魚種の釣りを楽しめる平塚港。車に乗ったまま船宿の前でスタッフに釣り物を告げると、車をどこに停めるかを案内してくれる。取材日のLTアマダイ船は最後の“フライト”。道具を降ろして受け付けを済ませ、餌と氷を受け取ったら休憩室でのんびり呼び出されるのを待つ。そこで耳にしたのが「相模湾では底引き網が規制されている」という話題。毎年、アマダイが安定して釣れるのはそのせいなのだと悟った。やがてトラックが到着すると「アマダイの方ぁ~!」と呼び出され、荷物を積み込んで船着場へと向かった。
最初の1匹が釣れれば“連釣”のチャンスも!
やや風はあるものの、穏やかな相模湾を走ること40分程で水深90mの釣り場に到着。期待の第1投は、誰の竿も曲がらず、餌も取られないという状況。スロースタートはアマダイ釣りではよくある事なので慌てず騒がず。開始20分後、右舷ミヨシ(船首)で定番“ゲスト”のアカボラ(ヒメコダイ)が上がり、程なくして右舷トモ(船尾)の竹内悟さん(平塚市)の竿先が小気味よく引き込まれた。巻き上げ途中、水深40mを過ぎた辺りで再び暴れ出す特有の魚信は“本命”のアマダイ。「小さいですけど」と本人は謙遜気味だったが、船中の意気は上がった。一方、左舷の胴の間(中央)で“連釣”していたのは加藤貴代美さん(横浜市)。「なるべくきれいな形の餌を選んで、ハリ付けは真っ直ぐになるよう心掛けてます」と加藤さん。オモリの着底後、3回程オモリで海底を小突いてから、竿先をゆっくり聴き上げてアタリを出す釣り方がパターンに填まり、着実に数を伸ばしていた。
船長に訊く、アマダイ釣りのコツ
LTアマダイについて、そのコツを「第五庄治郎丸」の世古勇次郎船長に訊いた。「マメなタナ取りと餌のチェック、そして8:2とかのちょっと硬い竿の方がハリ掛かりが良いかも」との事。取材日には7:3のゲームロッドで試釣していた船長は、アタリに対して合わせた後、手巻きで数m巻きながら追い合わせを入れていた。また、タナ取りの基本が「海底から“仕掛け全長の半分”の高さ」であるのに対し、日によって“真ダナ”が異なるのは「潮流の加減」が影響しているとの事。海面の潮流と海底の潮流は必ずしも同じ方向には流れていないので、釣れる(アタリの出る)タナを見つけて最初の1匹を釣ることが最優先事項となる。餌のチェックに到っては、取られていないか、真っ直ぐ付いているかの確認に加え、「砂や泥が付着しているか」、「底質のコンデションはどうか」を探る手がかりとなる。更に、数より良型のアマダイを釣りたい場合は「ハリを大きくする」のが得策だそうで、船長はチヌバリ5号を結んでいた。市販品の仕掛けに付いているケン付きの丸海津バリは、軽量化と掛かりを良くするために細軸となっているが、反面、折れ易いという特徴も併せ持っている。そのメリットとリスクを覚えておきたい。売り切れていることも多いが、船や受け付けに“船長の特製仕掛け”があるので、興味のある方は手に取って頂きたい。
美味しい“ゲスト”フィッシュたち
この釣りのもう一つの楽しみが、アマダイ以外に釣れる“ゲスト”フィッシュ。アマダイと同じタナで釣れるアカボラ(ヒメコダイ)は焼き霜造りにして食べたら専門に釣りたくなること請け合い。オキトラギスやクラカケトラギス等のトラギス類は天ぷらにすると非常に美味。食べてみればカモメに投げ与えていたことを後悔するだろう。釣り人にはレンコダイの呼称でお馴染みのキダイは塩焼きや煮付けで。オニカサゴは和洋どちらの鍋料理にも向いているが、背ビレや頬、尻ビレの毒トゲに注意。イトヨリは「まーす煮」や「潮汁」で繊細な味わいを。また取材日には仕掛けの回収中にサゴシと呼ばれるサワラの若魚も上がった。この他、アラの若魚やガンゾウビラメ、カナガシラ等、LTアマダイでは様々な魚が釣れる。しかも食べて美味しい魚たちばかりなので、海へ返す前に、ひとまずスマホアプリ等で調べてみるのが賢明だ。
竿頭は“本命”10匹達成!
前アタリを取り、しっかり合わせてハリ掛かりさせるテクニカルな釣り味に加え、アマダイ釣りのもう一つの楽しみは食味だろう。船上でアマダイを開いて船上干しにしていたのは加藤勝利さん(横浜市)。塩を振る等の味付けはせず、海水で洗うだけで充分美味しいとのこと。その他、関東ではまずお目にかかれない「ひとしおアマダイ」にして「若狭焼き」にしたり、蒸し料理にしたり、「コブ〆」や「焼き霜造り」、小さな個体は鱗を挽かずに素揚げにしてもいい。どう調理するにせよ、美味しく食べるには持ち帰り方も重要で、尤も簡単なのは、船宿で貰った氷を砕いたものに海水を注いで“水氷”を作り、釣り上げた魚を活きたままつけ込む「氷締め」。調理する前には塩で体表を撫でてヌメリを取ると作業がし易いだろう。取材日の釣果は2~10匹でオデコ無し。高級魚だけに手の込んだ一皿に挑戦するのも良いが、沢山釣れたらシンプルに塩焼きで食べてみるのも、釣り人の特権ではないだろうか。
安定の“好釣”、大物の気配アリ!
今期のアマダイの傾向を船長に訊いた。「まだ始まったばっかりだから何とも言えないけど、スタートからデカイのが出てるからまずまずかな。海水温がまだ23、24度あるから、これがもっと下がるとアマダイの食いも良くなると思いますよ」と、今後も益々期待大。すっかり秋模様の相模湾、朝夕は冷えることもあるので一枚多めに着込んで臨みたい。年末年始は混み合うアマダイ釣りを、ゆったり楽しむなら今がチャンス。ライトタックルで味わう繊細なゲーム性と、「冬の女王」の異名を持つ上品な甘み漂う豊かな食味を、存分にお楽しみ頂きたい。
今回利用した釣り船
出船データ
乗船料金:男性9,500円/女性&高校生まで5,500円(餌付き/※HPに各種割引あり)
集合:船宿へ6:00
出船:6:45(変動あり、予約時に確認を)
この記事を書いたライター
6歳から釣りに親しみ、海・川・釣堀・湖のルアー・フライ・餌釣りに節操なくのめり込む釣り好き。2019年JGFA沖釣りサーキット・総合優勝/2010年JGFAオールジャパンゲームフィッシングコンテスト・マダイの部・優勝(10.2kg)…他