2019年10月15日公開
日中は10月と思えない気温まで上昇するものの、朝夕の潮風に秋の足音を聴く今日この頃。気になる釣り物と言えばクロムツ(ムツ)の半夜釣り。今年はロングランの上に、ここに来て上昇傾向にある釣果情報に誘われて、静岡県・網代港『つちそう丸』に出掛けた。
道も空いてて すこぶる快適、秋の東伊豆
静岡県は熱海のちょっと先、網代港から出船している「つちそう丸」。カーナビを「静岡県熱海市網代100-7」とセットして、漁港に入ったら海を左手に見ながらずんずん奥へ進むと、突堤の白い灯台(伊豆網代港北防波堤燈台)を臨む埠頭に「第七つちそう丸」は停泊している。この船の第一印象はまずデカい。全長24m・19tのこの船は御蔵島への遠征船としても活躍していて、その速力と安定性はピカイチ。そこに大きく「つちそう丸」と書かれているので、方向音痴かつ近眼乱視の小生でもすぐに発見出来た。船の前に描かれた駐車枠に従って車を停め、待つこと暫し。上乗りさんが船を岸壁に着け、船長や女将と乗船の準備を始める。予約状況を鑑みて大船長が釣り座を割り振るので、乗船はコールがあってから。既に餌と氷は釣り座ごとにセットされているので、乗船から間もなくの河岸払いとなった。
食いは日暮れと供に昂ぶって──
夕陽に染まるベタナギの海を走ること30分程で釣り場に到着。船長から仕掛けの投入方法やオマツリ防止、取り込みのコツがアナウンスされた。釣れたサバは備え付けのまな板で短冊切りにして餌に出来るが、頭部や内臓はサメが集まるので釣り場で捨てないよう注意が促された。魚群探知機で魚の反応を捜していた船長から「ハイやって良いですよ。タナは底から1~3m」の合図で投入開始。アタリは早速訪れたが、最初の流しではオキメバルやアジが取り込まれたのみ。続いての流しでようやくお待ちかねの「ガッ、ガッガッガッ!」という魚信が竿先を叩いた。船中最初にクロムツを取り込んだのは左舷胴の間(中央)の賀集さん(横浜市)、ほぼ同時に掛けたお隣の引地さん(横浜市)は一荷(2匹掛け)と軒並み絶好調。もうこの後は誰が3番手か分からない釣れっぷりで、この食いは夕闇が深まるほどに活発になっていった。
クロムツとは…?
クロムツと聴いてピンと来ない方のためにざっくりご説明しよう。「むつっこい(脂乗りが良い)」、「むっちり(豊満)している」ことから「ムツ」と呼ばれるこの魚。見た目と名前の似た魚に“アカムツ(ノドグロ)”や“シロムツ(オオメハタ)”が居て、後味の良い上品な脂質と深く豊かな旨みは3種共通。大型の個体ほど美味しいことも似ている。ところが、実はこの3種でムツ科に属するのはクロムツのみ。せいぜい30cmどまりのシロムツや40cm級が良型と呼ばれるアカムツに対し、クロムツは70cmを超える個体が釣れることもあり、滅多にお目にかかれないが15kg超えというジャンボサイズが水揚げされた記録もある。日中は200mより深い海域で釣ることが多いが、夜間は90m前後の浅場に群れてエサを漁るため、オモリ120号の比較的軽い仕掛けで釣ることが出来る。そのため、深海釣りに用いる特殊なタックルを持ち出さずとも、やや胴に入る6:4調子のビシ竿やワラサに使うような粘りのある竿なら流用出来、そのお手軽さも魅力だ。煮付けや西京焼き、刺身は皮目を炙りカボスを絞れば絶品中の絶品。市場に出れば高値のつくこの魚が、群れを捕らえて、その日の釣れるパターンを掴むと、クーラー満タンになることも決して珍しくない。冬へ向けてその身に脂を蓄え、夜釣りが心地良い今がまさにベストシーズンと言えるだろう。
船長に訊く半夜クロムツのコツ
土屋旬船長に、これから半夜クロムツに挑戦する人へのアドバイスを訊いた。「ハリ数を2本から3本にして手返しを良くすることと、あとは誘いとタナ(釣れる水深)取り。船を流していると海底までの水深は浅くなったり深くなったりするから、それに合わせて上下するのと、食いっ気がある時は8mから10m位上がる。上からの方が型がデカいんだよね」と船長。また、この日はあまり被害がなかったものの、この釣りに付きものの“サメによる獲物の横取り”の対策を訊くと「タナを上に上げる。でもあんまり上げすぎるとスミヤキ(クロシビカマス)やサバが来ちゃうね」とのこと。ビーズなどの装飾を外すのもサメやサバ対策の定番だが、光り物がクロムツに効果を発揮する潮もあるとのことなので、困った時はその都度、船長に相談するのが得策のようだ。
旨い魚でクーラーずっしり、今がチャンス!
この日の竿頭は、クロムツ35匹を取り込んだ湯山さん(小山町)。船中平均20匹前後のクロムツのほか、クロシビカマスやメバルにメダイ、大アジにサバと、クーラーの中身は大変賑やか。みなさん笑顔での沖上がりとなった。今シーズンの半夜クロムツは例年になくロングランで「状況によっては11月も楽しめるかも知れない」と船長。電動リール用の「バッテリー」と「探見丸」を持参すると更に快適。週末は渋滞情報のチェックもお忘れ無く。半袖の上に一枚羽織れば心地よく、秋の深まりと供に旨みの増すクロムツのベストシーズンはまさに今。行き帰りの道路も空いているこの時期に、是非ともチャレンジ頂きたい。パターンを掴めば入れ掛かりになる最高の釣味と、旨み豊かな極上の食味を味わえば、あなたもきっとこの釣りのファンになること請け合いだ。
今回利用した釣り船
出船データ
集合時間:午後4時(変動あり、予約時に要確認)
出船時間:午後4時30分
乗合船料金:1万3,000円(氷・餌付き)
※女性・小中学生割引あり
この記事を書いたライター
6歳から釣りに親しみ、海・川・釣堀・湖のルアー・フライ・餌釣りに節操なくのめり込む釣り好き。2019年JGFA沖釣りサーキット・総合優勝/2010年JGFAオールジャパンゲームフィッシングコンテスト・マダイの部・優勝(10.2kg)…他