2023年08月22日公開
釣り番組を観ていると「やってみたい!」と思うものの中々踏み出せない釣りがある。道具が高価だったり、対象魚の釣れる地域が限定的だったり、その釣りに通じる人が周囲に居なかったり…。神奈川県は横浜で生まれ育った私にとって、クロダイ(チヌ)の“ダンゴ釣り”はその一つ。静岡県・清水にその手ほどきをしてくれる船宿があると聴き清水港『ふじや釣舟店』に出掛けた。
8月の集合時間は午前5時
『ふじや釣舟店』は、東名高速道路・清水ICから15分弱。巴川の河口、港橋の袂にある。店舗の裏手にある『西宮神社』の並びに1から6と書かれた駐車枠があるので、ここに頭から入れて車を停める。店に着いたら店主の納本さんに声を掛け、休憩場所にある乗船名簿を記入。これを持って黒板に書かれた名前の上に車のキーを預け、餌や昼食の注文をする。今回は「クロダイかかり釣り体験コース」を予約したので、お昼のメニューを告げたらその他はお任せ。黒板に書かれた指定のボート(24ftクラスの和船)に乗り込む。
やがて他船の釣り人たちのチェックインが済むと、納本さんがコマセと付け餌、釣り具の入った箱を持って来て、コマセの配合を教えてくれる。豆腐の製造時に発生する副産物の“おから”と砂利を混ぜたものをベースに粉末の“配合餌”と“さなぎ粉”を良く混ぜ合わせる。付け餌の冷凍オキアミや“さなぎミンチ”は船の生け簀に入れて解凍する。そうこうしているうちに午前5時半の出船時間となり、納本さんの操船するエンジン船に曳航されて、この日は4隻のボートが釣り場へと向かった。
開始早々、“本命”のアタリ!!
到着したのは、プリンのような形状の柱(コンクリートビット)が海上に立ち並ぶ“貯木場”と呼ばれるエリア。かつては材木の原料となる“原木”を一時保管するための港湾施設だったが、木材需要の低下によって遊休化しているこのスペースに遺されたのが、貯木をつなぎ止めていたコンクリートビット。ここに和船を係留して楽しむのが“かかり釣り”で、清水港のクロダイ釣りと言えばこのスタイルが主流となる。
2点係留でボートを舫い、「体験コース」では納本さんが、この地域の歴史や釣り場の説明、船宿や地域の積極的なクロダイ繁殖への取り組みを解説してくれる。また、クロダイの生態や収餌行動にはどんな傾向があるのかから説明してくれるので、この後のコマセダンゴの打ち方や、付け餌の選択、釣り方の指南が非常に構築的で分かり易い。
20分程のレクチャーの後、お手本に納本さんが手釣りの仕掛けでダンゴを沈めた釣り糸を見ていると、餌盗りと思われる魚がダンゴを突付くアタリが傍目にもハッキリ見て取れる。やがて、確信を持った合わせに糸が走り、海面を割ったのはクロダイの近縁種、30cm弱のヘダイ。「クロダイは一番最後に餌盗りの食べ残しを食べに来るので、辛抱強く待つようにしてください」というアドバイスを託され、私の人生初となるダンゴ釣りはスタートした。
なぜかアジが入れ食い、そして…
今回挑戦したダンゴ釣りは、釣り竿やリールを使わない“手釣り”。実は小学生の頃、初めて釣ったアジもマダコも、イナダもカツオもマグロまで手釣りだった私には何とも懐かしく、しかも水深が5m程の釣り場なので、ワラサのハリスほども出ていない糸を手繰るだけで捌けるためビギナーにも難しいとは思われない。寧ろコマセを握った手で穂先の繊細な釣り竿やマシンカットの精密な片軸リールに触る方が余計な神経を使うのではないだろうか。
さらに手釣りでは、ダンゴの中に付け餌があって餌盗りに突付かれているのか、ダンゴが割れて付け餌が海底を漂い始めているのかは勿論、アタリの出方で「アジだな」、「フグかな」、「このアタリは“本命”か?」とまさに「手に取るように」感知出来るのは特筆。「体験コース」では高価な道具を買う前にチャレンジ出来るよう、手釣りの道具を無料(通常は300円)で貸し出しているので、先入観で難しがらずに旧来の“手釣り”から入門することをお薦めしたい。
そんなこんなで、初めてのダンゴ釣りで最初に取り込んだのはアジ。1匹を掛けるとコツが掴めて入れ掛かりの一幕もあったが、やがて騒がしいアタリが遠退くと、それまでとは違うアタリが出始める。コンコンという前アタリからザラリ…、ヌっ…という手応えで合わせること数回、ようやくハリ掛かりして海面を割ったのはキーパーギリギリサイズのクロダイ(このサイズは通称“チンチン”)。餌盗りのアタリが遠退いて「クロダイは最後に来る」のアドバイスを思い出し、喰い気のある魚種の限られるコーン餌に付け替えての1匹。小さいながらも初めての“本命”を手にした喜びはひとしおだった。
穏やかな湾内の釣り、ビギナーにもお薦め!
かくして沖上がり最終の15時を迎え、曳航で船宿へ帰着。予め頼んでおけば希望の時間に上がることも出来るのだが、ついつい熱くなってフルタイムでの釣りになってしまった。この日は釣果の谷間に当たってしまったものの、竿頭の常連・田代さんは37cmを頭に8匹、同じく常連の河村さんが釣った最大魚は42cmと足るを知るには充分な釣果。初挑戦の私はキープしただけでアジ10匹と納本さんがお手本に釣ってくれたヘダイが良いお土産に。“ちいかわ”なクロダイは再会を期して海へと帰って貰った。魚は船宿で血抜きまでしてくれるのが嬉しいところ。帰宅してから刺し身と潮汁にして美味しく頂きました。
取材後は釣果も復活して連日50cmアップの大物が上がっている清水港『ふじや釣舟店』。これから釣りを始めたいビギナーの方々には勿論、台風の影響で沖に出られない欲求不満なベテラン勢にも、静かな湾内でのんびり楽しめる“かかり釣り”の妙を是非お楽しみ頂きたい。
今回利用した釣り船
出船データ
乗船料金:7,200円(一人乗り/曳き船・保険料・サービス料・稚魚放流協力費を含む)
餌代半日分(コマセ2杯、さなぎ粉、チヌパワー、オキアミ、コーン入りさなぎミンチ)及び手釣りの道具の貸し出しは無料(延長する場合はエサ代のみ実費)
※「体験コース」以外のメニュー代金は船宿HPを参照のこと
駐車場:1日1台1,000円
集合時間:午前5時までに船着場へ
この記事を書いたライター
6歳から釣りに親しみ、海・川・釣堀・湖のルアー・フライ・餌釣りに節操なくのめり込む釣り好き。2019年JGFA沖釣りサーキット・総合優勝/2010年JGFAオールジャパンゲームフィッシングコンテスト・マダイの部・優勝(10.2kg)…他