2022年11月19日公開
約4年の旅を終え、産卵のために海から母川へと戻るサケ。そんな母なる川へと遡上してきたサケを狙って新潟県は村上市の三面川(みおもてがわ)へ。三面川では10月1日から11月30日までの期間、サケ釣りの釣獲調査が行われるのだ。その応募に当った男3人がサケ釣りに挑む。果たしてサケを手にできるのか?
いざ、サケの町、村上市へ!
「タックルとルアーの準備は、それで大丈夫なの? お前らのサケ愛はいいんだけど、俺としては釣りの準備が、ちゃんとしてないのは許せないわけよ……」
今回のサケ釣行に参加する3人のメンバー内で、最もタックルの知識が豊富かつ深い森安が苦言を呈す。いや、僕も若林も決してタックルに不備があるわけではない。僕に関してはリールを新調してもいる。ただ、実弾となるルアーやフックに関しては森安ほど新規購入による補充が少ないのは確かだ。「今、持っている道具とルアーで何とかなるでしょ」と、新たに買いそろえるルアーが少なかった僕らを不安視(非難?)しているのだ。
この3人でサケ釣りに行くのは実に12年振り。前回の2010年には村上市の荒川でサケ釣りを体験した。その時は幸いにも3人ともサケを手にすることができた。そんな懐かしい思い出話や、今回のそれぞれの道具立てなどについて話ながら、深夜クルマを走らせる。目指すは新潟県の村上市を流れる三面川だ。
本日は晴天なり。だが三面川の水は濁っていた
夜明け前に受け付けのある三面川の河原に到着。冬の香りのする冷えた空気感。夜空には満点の星がきらめく。1時間半ほど、男3人、狭い車中にて仮眠。朝、受け付けを済ませてタックルの準備に取り掛かる。各地から集った猛者たちがポイントへと向かう。みんな凄腕の釣り師に見える。気圧されそうだ。ビビりは禁物。ブレイキングダウンの参加者よろしく、ハッタリも必要だ。我々も気合を入れて凄腕釣り師風のオーラをまとわなくては……。いや、どう見ても普通の釣りオジサンだ。そして森安が悲しげにつぶやく。
「用意したルアー、全部、忘れたみたい……」
今回のために買い足した15~20gのスプーン、フック、スプーンにセットする味付きのタコベイト。それに新たなる可能性を模索するために用意したビッグベイト。それらのすべてがないという。でも大丈夫だ、安心しろ。ルアーなら俺と若林が貸すぜ。「準備不足では?」と不安視された俺たちのルアーではあるけどな(笑)。
天気はまさに雲ひとつない晴天。しかし、三面川の水色は抹茶ミルクのように濁っている。濁りの理由は、この夏の豪雨災害で村上市が土石流などの被害を受けたことによる。上流部を含めた河川への影響も大きく、今なお濁りが続いている状況だ。それでも旅の終盤を迎えたサケたちが、母川である三面川へと遡上してきている。そんなサケを求めて、僕らはロッドを振り始めた。
サケが見え始め、活性も上昇。そして待望のヒット!
濁りによって川底の地形や状態が把握できないため、どの辺りを攻めていいのか見当がつかない。当然、遡上してくるサケの姿も見えない。これはなかなか厳しい釣りになるかもしれない。ただ、僕らよりも下流にいるエサ釣り師の長い延べ竿が大きな弧を描く。凄腕風の釣り師はやはり凄腕だったわけだ。でも、間違いなくサケはいる。そして我々のすぐ下流にいるルアーマンもサケを釣りあげた。日が昇り気温が高くなるに従い、サケの活性も上がってきたようだ。すると、川の中央部にかろうじて見える浅場と思しき付近に浮いてくるサケの姿。時に魚体をひるがえしたり、水面を跳ねたりする動きが見られるようになってきた。これは我々にもチャンスが巡ってきたととらえていいだろう。鼻息も荒くなる。
「ヒット! 掛けました!」
そして、若林のコール。それを聞きつけた僕は投げていたルアーを素早く回収。若林の元へと駆け寄りネットインに備える。ロッドが絞られドラグが鳴る。おおぉ~、やはりパワフル! 寄せてきたサケが一度、僕の構えるネットの直前までくるが、そこでもう一度、ラインを引き出して走る。もう一度、寄せ直そうと若林がサケをターンさせたところでフックアウト。
「ああぁ~、失敗した~。一気に寄せるべきだった~。サケは沖で泳がせても体力が落ちないんだった。失敗したぁ~」
僕のネットまで、あと1mほどまで寄っていただけに「キャッチするからそのまま寄せろ!」と自信を持って言えなかった自分も責任を感じてしまう。次は、一気に寄せてネットインだな。
スプーンのウエイトを15gにチェンジ。そして……遂に!
時折りサケが見える沖の浅場と思しき黒い馬の背の反対側に15gのテッペンスプーンをキャスト。魚が浮いてきた印象があったので、それまで投げていた18gからウエイトを軽くしたのだ。これが正解だったようだ。着水後、なるべく流れの中で泳ぎ続けるようにゆっくりとリトリーブ。すると馬の背を超える前にアタリ。ガツンという感触のあと、すぐに頭を振るファイト。「ヒット! きたよ!!」とコールするも若林と森安には聞こえなかったようだ。サケの口の堅さを考慮して、ロッドを立てて追い合わせを入れる。おおぉ、いい脈動、いい手応えだ。水面が弾けジュボジュボッと飛沫が上がる。このファイトに気づいて、ネットを持ったふたりが駆けつける。
「おぉ、やっぱりファイト中かよ」と森安。
「一気に寄せちゃいましょう」と若林がネットを構える。
無駄に走らせたり、ターンさせると先ほどの若林の魚のようにバラシの可能性が高まってしまう。主導権がこちらにあるうちに、一気に寄せるのが正解だろう。仲間を信頼してネットへ――。無事、キャッチ! ネットに収まったのはメスの66cm。12年振りの村上。12年振りのサケだ。
今回の3人釣行でのサケの釣果はこの1匹のみ。しかし、12年振りのエピソードとしては十分。次は12年後……とは言わず、ぜひ来年も村上のサケ釣りを楽しみたい。だって、今回、家に残されたままの森安のルアーもあるしね。
施設等情報
施設等関連情報
村上瀬波温泉ICより出て県道286号に入り、約3.3kmで三面川鮭産業協同組合に到着。
この記事を書いたライター
地元・多摩川での釣り&野外活動を楽しみつつ、自身でもトラウトやシーバスなどのルアーフィッシングを嗜む。冬はカワハギ釣りにも熱くなる!